自分で書かなくてもいい?自筆証書遺言制度の見直しによる変化
約40年ぶりに相続法が改正され、配偶者の権利が新設されました。これにより、被相続人が亡くなった後も、配偶者は残された家に住み続けることが可能になります。今回は、「配偶者居住権」についてご説明します。
配偶者居住権とは
高齢化が進み、日本人の平均寿命は「男性81.09歳、女性87.26歳」(平成29年)です。仮にこの数字をそのまま使えば、夫が81歳で亡くなったとしても、配偶者である妻はその後6年間、一人で暮らしていくことになります。
その際、大きな問題となるのが残された妻(配偶者)の暮らしと、その基本となる住まいをどうするかということです。
そこで新たに創設されたのが、配偶者居住権という制度です。この制度は、残された配偶者が、それまで住んでいた家に引き続き住むことができる権利のことです。
相続に際しこれまでに生じたケース
これまでの制度では、自宅(土地と建物)を遺されたものの配偶者が相続することができない、という事態が生じることがありました。
例えば夫のAさんが亡くなり、妻B子さん、息子のCさんとDさん3人が遺産を相続することになったとしましょう。相続財産は自宅(土地と建物)3,000万円と預貯金1,000万円とします。
すると、妻B子さんの相続分は「(自宅3,000万円+預貯金1,000万円)×相続分1/2=2,000万円」です。
息子Cさん、Dさんそれぞれの相続分は「(自宅3,000万円+預貯金1,000万円)×相続分1/4=1,000万円」となります。
法定相続分はひとつの目安であって、この通り分割しなければならないということはありません。
しかし、もし妻B子さんが夫Aさんと住み慣れた自宅(土地と建物)3,000万円を相続し、2人の息子が法定相続分を強硬に主張すれば、妻B子さんは2人の息子それぞれに500万円を支払う必要があります。そして、そのお金がなければ家を売却せざるを得ません。
夫Aさんの預貯金が3,000万円であれば、妻B子さんの相続分は「(自宅3,000万円+預貯金3,000万円)×相続分1/2=3,000万円」。
息子Cさん、Dさんそれぞれの相続分は「(自宅3,000万円+預貯金3,000万円)×相続分1/4=1,500万円」となります。
この場合、妻B子さんが夫Aさんと過ごした自宅(土地と建物)3,000万円を相続すると、預貯金3,000万円については2人の息子が1,500万円ずつ受け取ることになります。
しかし妻B子さんは、これまでどおり自宅に住むことはできるものの、「今後の生活資金がない」ということになります。
配偶者居住権によって何が変わるか
新たに創設された配偶者居住権制度ではどうなるでしょう?
配偶者居住権は、相続する不動産を「配偶者居住権」と「所有権(配偶者居住負担付所有権)」の2つに分け、配偶者が「配偶者居住権」を持つことで、それまで住んでいた家に引き続き住むことができるようにし、また相続後の生活の保障も厚くしようとするものです。
配偶者居住権には評価額というものがあります。ここでは、夫Aさんが遺した自宅(土地と建物)の配偶者居住権を1,500万円としてみます。
すると、相続財産が自宅(家と土地)3,000万円と預貯金3,000万円の場合、配偶者居住権制度では次のように分割することができます。
・妻B子さん→配偶者居住権1,500万円+預貯金15,00万円=3,000万円
・息子C、Dさん→所有権(配偶者居住負担付所有権)750万円+預貯金750万円=1,500万円
夫Aさんが遺した自宅(土地と建物)を「配偶者居住権」と「所有権(配偶者居住負担付所有権)」の2つに分けることで、法定相続分どおりに分割しても、妻B子さんは、引き続き夫Aさんと暮らした家に住むことができ、また、生活資金も受け取ることができます。
夫Aさんの預貯金が1,000万円の場合は次のようになります
・妻B子さん→配偶者居住権1,500万円+預貯金500万円=2,000万円
・息子C、Dさん→所有権(配偶者居住負担付所有権)750万円+預貯金250万円=1,000万円
配偶者居住権の要件
配偶者居住権が認められるための要件は次のようになっています。
「被相続人(上の例では夫のAさん)の配偶者(上の例では妻B子さん)は、被相続人(夫のAさん)の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次のいずれかに該当するときは、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する。『①遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき』
『②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき』」
しかし、これには続きがあり「ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない」とあります。
上の例で言えば、自宅(土地と建物)の権利を夫のAさんと息子Cさんが50%ずつ持っていたという場合、配偶者居住権を設定できないということです。
夫のAさん、妻のB子さんが共有していた場合は、配偶者居住権を設定することができます。