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藪﨑秀實

不動産や相続の悩みに応える認知症対策と家族信託のプロ

藪﨑秀實(やぶさきひでみ) / 宅地建物取引士

株式会社 あいしん不動産

コラム

仮払い制度で「亡くなった人の預貯金」の払い戻しが変わる

2019年8月1日

テーマ:相続法改正

コラムカテゴリ:住宅・建物

相続法の改正によって「預貯金の仮払い制度」が新設されました。これは被相続人が亡くなった後、その配偶者や子どもといった相続人が生活費などに困らないように、亡くなった人の預貯金を払い戻しができる制度です。内容についてご説明します。

これまでの制度の問題

「預貯金の仮払い制度」は遺産分割前であっても、遺産の預貯金のうち一定額について、相続人が単独で預貯金の払い戻しができる制度です。

これまでは、遺産分割協議が終了するまで、亡くなった人の預貯金は相続人の共有財産とされ、相続人単独での預貯金の払い戻しはできないとされてきました。しかし、このためさまざまな問題が生じます。

例えば、夫Aさんが亡くなり、預貯金750万円が妻B子さんと娘C子さんに遺されたとします。

妻B子さんは専業主婦で、暮らしは夫Aさんの収入で賄ってきました。妻B子さん自身の蓄えはありません。

そのため妻B子さんにとって、夫Aさんの葬儀費用や日々の生活費は緊急の問題です。あるいは、夫Aさんに負債が見つかり、早急に弁済する必要があるというケースも考えられます。

これまでの制度では、妻B子さんは、娘C子さんの同意がなければ夫Aさんの貯金の払い戻しができないことになっていました。しかし、これでは妻B子さんは困ってしまいます。

「子が同意しない。親子の間柄でそんなことがあるの?」と思う人がいるかもしれませんが、親子仲が険悪な場合、こうしたケースも少なくはありません。

遺産相続でもめるケースとして分割が難しい不動産が挙げられますが、預貯金を誰がいくら引き継ぐのかでもめるケースも多いのです。

「預貯金の仮払い制度」は、これまでの制度にあったこうした問題を防ぐために創設された制度です。

仮払い制度の改正内容

「預貯金の仮払い制度」には、「(1)家庭裁判所で手続きする制度」「(2)家庭裁判所の手続きを経ない制度」があります。

(1)家庭裁判所で手続きする制度
これは従来の「家事事件手続法」の要件を緩和するもので、家庭裁判所に預貯金の仮払いを申し立て、その申し立てが「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情」によるものであり、「ほかの共同相続人の利益を害しない限り」、「遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができる」というものです。

(2)家庭裁判所の手続きを経ない制度
家庭裁判所の許可が不要な新しい制度です。家庭裁判所の手続きを経ず、各相続人が単独で、直接、金融機関の窓口で預貯金の払い戻しを受けることができます。

では、いくらまで払い戻せるのでしょう。

他の相続人の同意がなくても単独で払い戻しを受けられる金額は、次の計算式で求めます。

「相続開始時の預貯金額×1/3×相続人の法定相続分=単独で払い戻しを受けられる額」

上の例で計算してみると、妻B子さんが単独で払い戻しを受けられる金額は、
「相続開始時の預貯金額750万円×1/3×法定相続分1/2=125万円」となります。

家庭裁判所で手続きする制度は、申し立てから許可が下りるまで日を要します。この点はデメリットと言えますが、「遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができる」という点はメリットです。

家庭裁判所で手続きをする方法を選ぶか、家庭裁判所の手続きを経ずに払い戻しを請求する方法を選ぶかは、それぞれの事情によって判断することになります。

仮払い制度の注意点

「預貯金の仮払い制度」の注意点を確認しておきましょう。

ひとつは、金融機関で払い戻しを受けることができる金額に上限がある、ということです。

例えば、上の例の夫Aさんの預貯金が1,200万円とした場合、妻B子さんが単独で払い戻しを受けられる額は、「相続開始時の預貯金額1,200万円×1/3×法定相続分1/2=200万円」となります。

しかしこの制度では、1つの金融機関から払い戻しが受けられるのは150万円までとされています。制度の趣旨が、「相続人が当面の生活資金に困らないように」というものだからです。

では、次のようなケースはどうでしょう。
Dさんが、A銀行に1,200万円、B銀行に900万円の預金を遺して亡くなったとします。相続人はDさんの妻、長男、次男の3人とします。長男が「葬式代の必要があるから、仮払いの請求をしよう」と、A銀行、B銀行に仮払いの請求を行いました。

この場合、長男は、A銀行からは「1,200万円×1/3×法定相続分1/4=100万円」、B銀行からは「900万円×1/3×法定相続分1/4=75万円」、合わせて175万円の払い戻しを受けることができます。金融機関が複数あれば、それぞれの口座から引き出すことができるということです。

ただし、「預貯金の仮払い制度」で払い戻された預貯金は、払い戻しを受けた相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされ、遺産分割のときに実際の相続財産から控除されます。

「預貯金債権の仮払い制度」の施行は、平成31年(2019年)7月1日とされています。

この記事を書いたプロ

藪﨑秀實

不動産や相続の悩みに応える認知症対策と家族信託のプロ

藪﨑秀實(株式会社 あいしん不動産)

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