営業担当にインセンティブを付ければ業績は向上するのか?
「大口売上を作った担当者をみんなの前で褒めてはいけない」
これが当時の部長の教えでした。この部長は、日本橋三越のお得意様営業部(現、外商部)の売上を9年間で2倍にした改革のリーダーでした。最初はこの発言の意味が分かりませんでした。その主旨はこのようなものでした。
「それに大きく2つの理由がある。1つは売上というのは売場の販売員と外商部のチームの仲間みんなで作っているのだから一人だけの成果ではない。もう1つは、他のメンバーからの嫉妬を生んでしまう可能性がある。『あいつはいいよな。良いお客様を持っていて…』というようなことを陰で言うような人も出てくる。だから、褒める時は個人を呼んで褒める。その時になぜその商談が成約したのか理由を確認する。もちろん、事前に売場販売員に裏をとっておく。売場販売員がお膳立てしている場合が大半だった。」
その一方で、積極的に言わなければならないこととして次のように説明してくれました。
「宅訪したと報告しているにも関わらず実際には喫茶店で油を売っていたとか、電話アプローチをしたと言いながら実際には時報(117)もダイヤルして数を稼いでいるとか、不正行動があった時には全員参加の朝礼でこう言うんだ。『みなさん、…というような不正を行っている者がこの中にいます。今回は名前は伏せますが、次回は皆さんの前で公表します。』 不適切な行動を放置すると“蟻の一穴”、そこから組織は崩れてしまう。絶対に許してはいけない。」
こうした不正を見抜くため、抜き打ちで顧客宅へ電話して「本日、うちの担当者がご挨拶させて頂きました。ありがとうございます。」と伝える。電話アプローチ期間は電話室にお願いしてどの電話からどこにどのくらい通話していたのかリストを作ってもらい、毎日の報告書と電話室との報告件数が大きく違う担当は個別に呼び出して指導していました。
「こういった指導は、直属の上長はやりづらいだろ。だから部長がやるんだよ。」
ここまで行動基準を徹底してこそ、「顧客との関係性深化」は着実に進み、結果として売り込みではなく「お役立ち」の結果として売上の拡大につながったのでした。
ポテンシャルのある顧客でも、お買い上げが多い時期と少ない時期があります。担当者に具体的な行動を委ねてしまっていては、効率を優先して直近でお買い上げが期待出来る顧客に営業活動は集中してしまう。現状はお買い上げが少ない顧客にも最低限の接点を持つよう徹底する。ライフステージの中で大きな買い物をする時に、まず第一に三越の担当者の顔が浮かぶようになる…結果として売上が伸びる。
スーパーセールスでなくとも、むしろふつうのセールスが愚直に接点活動することで継続的に売上を伸ばせるならば、その方が望ましいと思うのです。