優秀な人材を集めたチームが多様な人材を集めたチームより生産性が低い?
前回の議論の続きです。
営業に関わる商売をされている企業経営者のお話をよく伺うのですが、私の論点は「中長期的な業績向上のために今やらなければならないことは何か?」です。そんな視点で議論をしていく時に耳にするのが、「若手が定着しない…」という実態でした。その理由は前回のコラムでも指摘したとおり、「飽きやすい」とか「こらえ性がない」とかの情緒論ではなく、働きがい、やりがいといった本質論だと思っています。
毎度の話で恐縮ですが、百貨店個人営業時代の話をします。超ベテランで多くの顧客を抱え、毎年大きな売上高を達成する社員の方が数名いらっしゃいました。社内の人事制度上も一般社員とは別格の扱いを受けていて、処遇も高かったのです。間違いなく本人たちも相当のプライドをもっていたはずです。その方々はもともと売場の仕事をしながら、担当顧客のおもてなしをしていたのですが、働き方改革の一環として個人営業部門へ異動となり、より顧客対応に専念できる体制が整えられたのです。
当時の個人営業部門は営業なんて一度もやったことのない人ばかり。そんな素人営業担当に、「まずは担当する顧客とふつうに雑談ができる関係を作ること」というミッションを与えて、ご自宅訪問や電話でのご挨拶などの活動が始まっていました。効率的にご自宅を訪問しなければなりませんので、担当顧客は完全エリア制です。つまり、担当する顧客は、例えば中央区などと規定されていました。ほぼ例外なくです。ご自宅に訪問しても、最初はインターフォン越し、場合によっては居留守を使われたり…悪戦苦闘の毎日。電話でのアプローチをしても、いきなり電話を切られたり、話をしていても聞き流されたり…の繰り返し。でも、人間はそこまで非情に出来ていないので、なんどか接点を持つうちに、少しずつ関係が出来てきて「ふつうに雑談ができる」ようになっていったのです。
店舗の各営業部も担当者の接点活動からいろいろな顧客の声を聞いて、個別のニーズに合った提案も出来るようになりました。結果として、売上高も増えていきました。お買い物をするならば、一生懸命頑張っているあの担当者にお願いしよう! こうなってきたのです。
そしてどうなったのか。この個人営業部門では120名程度の営業担当が所属して、個人業績(宅訪件数・電話アプローチ件数・DM郵送数・イベント動員数・情報収集の精度・個人貢献売上高など)ランキングを半期ごとに発表していたのですが、なんと先のベテラン営業はトップではなく、真ん中くらいに留まっていたのです。これには当時の部門長も困ってしまって、とうとう営業チームから外して支援チームへ配置換えせざるをえなかったのです。よくよく調べてみると、当該ベテラン社員の皆さんは、とても大きなお買い物をする顧客を数名抱えており、その売上が彼らの個人業績の大きなシェアを占めていたのでした。だからこそ、他の営業担当がやってきたような個人宅への訪問、電話アプローチなどは(馬鹿にして?)やらなかったのです。
敢えて言えば、ベテラン社員は既得権に守られているだけでした。培ってきた知識や技術を企業業績に活かし切れていなかったということです。
この話にはもう一つ考えなければならない点があって、先の一般営業担当は個人売上目標を持っていなかったということです。当時の部門長は言います。「あの時に個人売上目標を割り当ててしまっていたら、こんな改革は出来なかった。個人売上目標としてしまうと、お買い上げ高が大きい顧客に対応が集中し、結果として働き方改革にはならなかっただろう。」
そうなんです。個人売上高目標は“諸刃の剣”。この問題はまた後日ご説明したいと思います。