あるメンバーの『営業日報』より~「タンスの中まで知る」伝説のONE TO ONEマーケティング~(その1)
売上の方程式④’
売上高=(既存顧客+新規顧客)×買上頻度×1客点数×1点単価
今回のテーマは1点単価です。つまり、“アップセル”です。
私が勤務していた時代の日本橋三越お得意様営業部(個人営業)の組織目的は“関係性深化とお役立ち”でした。つまり、顧客との信頼関係の構築を通してご家族も含めたライフイベント、趣味嗜好、関心事の情報を収集し、適切なタイミングでモノ・コトを提案し、結果としてウォレットシェアとライフタイムバリューの最大化に繋げることを目指していました。だからこそ、企業側の視点に立った“売り込み”は絶対にしない。顧客が自ずと買って頂けるように環境を整える。まさしくセリングではなく、マーケティングの活動でした。
「1点単価」はより良質で、その結果として高価な商品を購入していただくことなので、当然ですが商品知識や販売技術が問われることになります。そのため、「動員までが営業担当の仕事、売上高に結び付けるのは売場販売員の仕事」という役割分担がありました。もちろん、営業担当が売場販売員より商品知識があって、販売技術が高いならばそれに優るものはありません。顧客の潜在的なニーズも含めて知っているのですから、本当に顧客によってメリットがある商品を薦めることになるからです。でも、実際には売場販売員の方が詳しい。役割分担していた訳です。
商品の価値を掘り下げて考えましょう。
『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 基本編 第3版』(丸善、2014)には次のような記述があります。
「顧客価値ヒエラルキーは5つのレベルから構成されており、レベルが上がるごとに顧客の価値も上がる。最も基本的なレベルは中核ベネフィットで、顧客が実質的に手に入れる基本的なサービスやベネフィットを意味する。ホテルの利用客は『休憩と睡眠』を購入し、ドリルを買った人は『穴』を購入しているのである。…第2のレベルは…ベネフィットを基本製品に転換しなければならない。したがって、ホテルの部屋はベッド、バスルーム、タオルを備えている。第3のレベルでは…期待製品、すなわち購買者がその製品を買い求めるときに通常期待する一連の属性と条件を整えなければならない。ホテルの利用客は、清潔なベッドや洗い立てのタオルなどを期待している。大半のホテルはこのような最低限の期待に沿うものであるから、旅行者は通常、最も便利であるか低価格であるという理由でホテルを選ぶ。第4のレベルでは、顧客の期待を上回る膨張製品を用意しなければならない。…第5のレベルに潜在製品がある、このレベルは製品に対し将来行われる可能性のある膨張および転換すべてを含む。これは企業が顧客を満足させ、自社の提供物を特徴づける新しい方法を模索するレベルである。」(前掲書、220-221頁)
商品の価値とは多層構造になっていて、単なるモノとしての価値だけでなく、そのモノに附随するサービスを含めてトータルで評価されるものという意味だと考えられます。
より価値の高い商品を購入頂くためには、単にモノの性能が良いだけではなく、充実したアフターサービス、当該商品が誕生した背景、そして販売員や営業担当に対する信頼感などを含めた魅力を高めていくことが必要になります。そして、顧客に正しく当該情報を伝えるだけでなく、本当に必要としているタイミングを捉えて提案することが重要です。ここでもやはり顧客との関係性が重要であることが分かります。
“あなたから買いたい”と言って頂けること、顧客との関係性こそ最強の戦略と考えます。