離婚事件簿その11~未成年子との面会交流調停(後編)
夫婦が離婚をするに際しては、婚姻中に夫婦で共同して形成した「夫婦共有財産」が、その名義のいかんを問わず、財産分与の対象となります。そして、夫婦共有財産については、「離婚する夫婦が2分の1ずつ分け合う」という実務が家庭裁判所において定着しており、こうした裁判所の運用は、一般的に「2分の1ルール」と呼ばれています。
例えば、会社員の夫と、専業主婦の妻の夫婦が離婚する場合に、夫名義で多くの財産を形成していたとしても、原則として夫名義の財産の半分は、妻に分与することになります。これは、夫名義の財産の形成は、妻の「内助の功」があったからこそであるという考え方が背景にあり、その寄与の度合いは、夫の寄与に劣らないと考えられているからです。
これに対して、「専業主婦の妻の家事は十分なものではなかった」といった主張がなされることがありますが、基本的にはこのような主張が通ることはありません。
かつては、専業主婦の夫婦共有財産形成に対する寄与割合について、夫の寄与割合よりも低く考えられていた時代もありましたが、このような考え方は、個人の尊厳と男女平等の理念からして、現在では全く受け入れられません。
もっとも、2分の1ルールを適用すると、個人の尊厳をかえって損なうような場合にまで、このルールを機械的に適用してしまうと、公平を損ねたり、場合によっては男女平等に反することにもなりかねません。
では、どのような場合に、この2分の1ルールの修正が検討されるべきなのでしょうか。
修正されうる場合①~夫婦の一方に相当な浪費傾向が見られる
例えば、夫婦共働きの家庭で、双方とも年収600万円程度。妻は堅実に貯金するタイプである一方、夫はギャンブル癖があって派手に遊び回るタイプであったとします。長年の夫婦生活を経て、堅実な妻には5000万円の貯金ができた一方、浪費癖のある夫には貯金はありません。なお、この夫婦には妻名義の貯金のほかに財産はありません。
このケースで2分の1ルールを機械的に適用すると、妻は離婚に際して、夫に2500万円を分与することになります。しかし、これでは男女平等や個人の尊厳の理念をかえって損なう結果になってしまいます。
そこで、このような場合には、妻の夫婦共有財産の形成に対する寄与割合は、夫よりも大きいと考えられることから、2分の1ルールを修正すべきであるように思われます。
具体的な割合については、個別の事情を検討する必要がありますが、生活費の支出は公平に分担していたのか、それともどちらかがより多く支出していたのか等の事情が、一つの重要な判断要素となるでしょう。
参考となる裁判例として、被告(B)を上回る給与収入を得ていた原告名義の財産が、総額の1%にとどまるのは浪費傾向があったからであるとし、これに対して、被告(B)は、原告(A)より少ない給与収入の中から、毎月相当額を家計に拠出する一方で、倹約に努めて資産を形成してきたこと等を考慮して、原告(A)の寄与割合を3割、被告(B)の寄与割合を7割とした平成28年3月の水戸家裁の判決が文献で紹介されています(「2分の1ルールだけでは解決できない財産分与額算定・処理事例集」新日本法規・182ページ)。
もっとも、この事例では、被告(B)名義の財産形成に、被告(B)の母親からの援助や相続が一定程度寄与しているという事情も考慮されています。
このことから、単に夫婦の一方に浪費傾向があるとか、双方の保有財産に差があるといった事情のみをもって、一般的に2分の1ルールが修正されるという結論が導かれるわけではないと考える必要があります。
修正されうる場合②~夫婦の一方の特別な能力などによる資産形成
夫婦の一方がスポーツ選手や会社経営者、あるいは、医師や士業等の職業にあって、生まれ持った才能や、婚姻前の努力によって取得した資格等によって多額の資産を形成している場合、その才能等を有する夫婦の一方の寄与が大きいと考えられることから、2分の1ルールが修正されることがあり得ます。
ただ、ここで注意が必要なのは、単に配偶者の一方がスポーツ選手や会社経営者であったり、医師や士業等であるからといって、直ちに2分の1ルールが修正されるわけではないということです。特別な才能や努力によって相当高額の収入を得て、これによって資産が形成されていることが必要になります。
医師や弁護士でも、平均的なサラリーマンとさほど財産状況が変わらないことも少なくありませんし、中小企業の経営者も同様でしょう。また、ある程度高収入であっても、生活レベルが高いために、さほどお金が貯まっていないケースもよく見られます。このような場合には、2分の1ルールが修正されることはありません。
このケースについて参考になる裁判例としては、7600万円の資産が形成されたのは、夫が1級海技士の資格を持ち、海上勤務が多かった(1年のうち6ヶ月から11ヶ月)ことが大きく寄与しているとして、形成財産の約3割に当たる2300万円の支払いを夫から妻に行うよう命じた事例(5割→3割に減額。大阪高裁平成12年3月8日判決)、夫が一部上場企業の代表取締役で婚姻中に約220億円の資産を形成した事案について、妻にはその5%である10億円を分与した事例(50%→5%に減額。東京地裁平成15年9月26日判決)、医師である夫の医療法人の出資持分(純資産評価の7割)について、夫の寄与割合を6割、妻の寄与割合を4割とした事例(5割→4割に減額。大阪高裁平成26年3月13日判決)などがあります。
修正されうる場合③~夫婦共有財産の形成に特有財産の寄与がある
財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻中に形成した財産ですから、独身時代から保有していた財産や相続で取得した財産は、「特有財産」として財産分与の対象にはなりません。
ただ、独身時代に形成した預貯金や相続資金がそのまま残っているのではなく、婚姻後に入出金が繰り返されている場合は、特有財産と夫婦共有財産が混在していることになり、これを明確に分けるのは困難です。このような場合には、当該預貯金は、夫婦共有財産であると推定され、財産分与の対象となってしまいます。
また、婚姻後に取得した証券や不動産についても、一定程度が独身時代の蓄えで取得されたとはいえるものの、それが全てであるとはいえない場合も、財産分与の対象外であるとはいえないことになります。
しかしながら、これらに2分の1ルールを機械的に適用してしまうと、特有財産の保有者にとっては公平を欠くことから、このような場合は、財産分与の対象であるとしつつも、その寄与割合を2分の1とするのではなく、修正を行うことによって公平を図る手法がとられることがあります。
参考となる裁判例としては、母親からの援助や相続資金が財産形成に寄与していることを考慮している上記①の事例である平成28年3月の水戸家裁判決や、ゴルフ会員権取得原資の一部に特有財産が含まれるとしても、財産分与の対象となるとしつつ、分与の割合について夫から妻に約3割6分に相当する部分を分与するとした事例(東京高裁平成7年4月27日判決)などがあります。
以上のとおり、財産分与においては、2分の1ずつ財産を分け合うのが原則ですが、特別な事情が見られる場合には修正が行われることもあります。
他にも夫婦生活において、相当の長期間にわたって同居していないような場合には、寄与割合の修正が行われることもありますが、単に単身赴任の期間があったというだけでは、修正を求めることは難しいでしょう。
このように2分の1ルールの壁は、なかなかに高く、超えるのは容易ではありませんが、絶対的なルールではありません。2分の1にするのは納得がいかない、おかしいのではないか等、問題意識をお持ちなのであれば、諦める前に専門家である私たち弁護士にご相談ください。
弁護士 上 将倫