離婚事件簿その12~面会交流の重要性
離婚の問題に直面している夫婦の多くは、別居に至っているものですが、たとえ別居をしていても、法律上、離婚が成立するまでは、「夫婦」として相互に扶養する義務がありますから、夫婦が生活していくために必要な費用(「婚姻費用」といいます)を分担する義務を免れることはできません。
月々の婚姻費用の金額については、夫婦間の協議でまとまれば、その金額を支払義務のある側(大半は夫側)が支払っていくことになります。
夫婦間で協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることができ、舞台を裁判所に移して協議を行い、金額を決めていきます。
調停においても協議がまとまらなければ(調停不成立)、審判手続に移行し、裁判所がその金額を決定することになります。
婚姻費用の金額の算出にあたっては、権利者(婚姻費用を請求する側)と義務者(婚姻費用を支払う側)の収入を基礎にした複雑な計算式が用いられるのですが、この計算式を前提とした早見表が作成され、家庭裁判所のウェブサイトで公開されていますから(養育費・婚姻費用算定表)、この算定表を参照すれば、比較的容易に婚姻費用の金額の目安を確認することができます。
しかし、このように裁判所が作成した算定表があるのに、なぜその金額をめぐって争いとなるのでしょうか。
それは、実際の事案においては、算定表には考慮されていないが、考慮されるべき個別具体的事情が存在するからです。
とりわけよく問題となるのが、別居している婚姻費用を支払う側が、婚姻費用を請求する側が住んでいる家の住宅ローンや家賃を支払っているケースです。
義務者が権利者宅の住宅ローンの支払をしている場合
住宅ローンの支払には、居住のための費用(住居費)の支出という側面と、不動産という資産の形成という側面があります。
前者を重視すれば、住宅ローンの支払は、婚姻費用を請求する側の住居費を肩代わりしているわけですから、婚姻費用の算定においても考慮されるべきであるということになりますが、後者を重視すれば、婚姻費用を支払う側が、自らの資産を形成しているに過ぎないとして、婚姻費用の支払とは別個に考えるべきであるということになります。
ただ、婚姻費用の算定表は、もともと住居費については、婚姻費用を請求する側が、自ら支出、負担していることを前提に作成されていますので、婚姻費用を支払う側による住宅ローンの支払によって、実際には、婚姻費用を請求する側が住居費の支払を免れているにもかかわらず、これが一切考慮されないとなると、婚姻費用を支払う側は、住宅ローンの支払をしながら、婚姻費用を請求する側に対して、住居費を含めた婚姻費用を支払うという二重の負担を強いられることになってしまいます。
そのため、婚姻費用を支払う側が、婚姻費用を請求する側宅の住宅ローンの支払をしている場合には、一定の範囲でこれを考慮することが多いようです。
もっとも、別居に至った経緯や双方の収入などの事情によっては、これを考慮しないこともあります。
例えば、夫が不貞をした挙げ句に、家を出て行ったような場合には、仮に夫が妻宅の住宅ローンを支払っていたとしても、これは考慮しないといったことがあり得ます。
ただ、住宅ローンの支払を婚姻費用の算出にあたって考慮するとしても、具体的な計算方法については、以下のように様々な考え方があります。
① 婚姻費用を支払う側の年収から住宅ローンの支払額を控除した金額を、婚姻費用を支払う側の収入とみなして算定表にあてはめる方法
② 算定表が作成された際に特別経費として考慮した婚姻費用を請求する側の住居費相当額(総務省の家計調査における「特別経費実収入比の平均値」による金額。例えば、婚姻費用を請求する側である妻の年収が200万円未満のときは、2万7940円とされています)を、算定表から導き出された婚姻費用の金額から控除する方法
③ 双方の生活状況や別居に至った経緯などの様々な事情を考慮して、例えば、「算定表の金額の7割」といった割合的な認定をする方法
なお、大阪家裁では、②の方法が採られることが多いようです。
義務者が権利者宅の家賃を支払っている場合
家賃の支払については、住宅ローンの場合とは異なり、資産形成の側面はないため、婚姻費用を支払う側が、婚姻費用を請求する側宅の家賃を支払っている場合は、婚姻費用の支払の一部であると考えられます。
したがって、算定表から導き出された金額から、婚姻費用を支払う側が支払っている、婚姻費用を請求する側宅の家賃の金額を控除した金額が、婚姻費用を支払う側が、支払うべき婚姻費用の金額となるのが原則です。
もっとも、婚姻費用を支払う側の収入に比して家賃が高いために、家賃相当額を控除してしまうと婚姻費用を請求する側の生活が成り立たたず、賃料が安い他の物件への転居も難しいといったケースも考えられます。
このような場合には、控除する金額を一部に留めるなどの結論に達することもあり得ます。
以上が現在の実務の傾向ですが、住居費の控除については、様々な考え方がありますし、実際の事案においても、双方の収入や経済事情、生活状況等、様々な事情によって、妥当な解決は異なります。
統計による平均値を適用するような機械的な判断ではなく、個別事情に応じた柔軟な解決が望まれるところです。
弁護士 上 将倫
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