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男女間トラブル事件簿その14~セクハラに対して会社はどのように対処すべきか-最高裁判決を受けて

上将倫

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テーマ:男女間トラブル事件簿

平成27年2月26日最高裁判決

 「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」,「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」,「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから。」
 「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」
 「いくつになったん。」,「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」
 「30歳は、二十二、三歳の子から見たら、おばさんやで。」,「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」
 「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」

 これらは、平成27年2月26日に最高裁判所が行った、言葉のセクハラを理由として会社が行った懲戒処分に関する判決において認定されたセクハラ行為の一部です。
 処分の対象となった管理職の男性従業員2名は、女性従業員2名に対して1年あまりにわたってこのような発言を繰り返し、これが一因となって、女性従業員の内1名はこの職場での勤務を辞めることになってしまいました。
 それまでは、被害者である女性従業員らは、セクハラ加害者である男性従業員らの報復をおそれるなどして、会社に訴えることを控えていましたが、ついに内1名が勤務を辞めるにあたり、会社にセクハラ被害について申告しました。
 この被害申告を受けて、会社は、加害者である管理職の男性従業員の内1名に出勤停止30日、もう1名については出勤停止10日の処分とし、また、それぞれ1等級の降格処分を行いました。
 
 この会社の懲戒処分について、原審(控訴審)の大阪高等裁判所は、男性従業員らによる発言等は、会社の秩序または職場の規律を乱し、服務規律に違反したものであるとして、出勤停止等の懲戒事由に該当するとしながら、本件の懲戒処分は、重すぎるもので社会通念上相当とは認められず、懲戒権の濫用として無効であると判断しました。
 その中で、大阪高等裁判所は、処分が重すぎると判断した理由として、男性従業員側に次のような事情が存在していたことを示しました。

① 女性従業員らが明確な拒否の姿勢を示していなかったため、男性従業員らは、このような言動を許されるものと誤信していた。

② 男性従業員らには、会社のセクハラに対する懲戒に関する具体的な方針を認識する機会がなく、また、事前に会社から警告や注意等を受けていなかった。
 
 この点、最高裁判所は、まず、男性従業員らの発言等について、「いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するもの」であるとして、セクハラ行為であると認定しました。

 さらに、会社は、セクハラを禁止する文書を作成して従業員に周知するとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなどセクハラ防止の取組を行っており、当該男性従業員らはこの研修に参加していただけでなく、管理職としてセクハラ防止のために部下に指導を行うべき立場にあったのであって、そのセクハラ行為は、「職責や立場に照らしても著しく不適切なもの」であり、そして、従業員の内1名が勤務を辞めていることからしても、セクハラ行為が「企業秩序や職場環境に及ぼした悪影響は看過し難い」と判示しました。
 
 その上で、原審大阪高等裁判所の判断について、以下のとおり判示しました。

① 女性従業員らが明確な拒否の姿勢を示していなかったため、男性従業員らは、このような言動を許されるものと誤信していたことについて

 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや」、「本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような(許されるものと誤信していた)事情があったとしても、そのことをもって被上告人ら(男性従業員ら)に有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。」として原審の判断を覆しました。

② 男性従業員らには、会社のセクハラに対する懲戒に関する具体的な方針を認識する機会がなく、また、事前に会社から警告や注意等を受けていなかったことについて

 以下の理由から、「被上告人ら(男性従業員ら)に有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。」として、①と同じく原審の判断を覆しました。

○ 管理職である男性従業員らは、セクハラ防止についての会社の取り組みや方針を当然に認識すべき立場にある。

○ セクハラ行為が、女性従業員らが被害の申告に及ぶまで1年あまりにわたって継続していた。

○ セクハラ行為の多くが第三者のいない状況で行われており、被害の申告が行われる前の時点で、会社がセクハラ行為を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれない。

 以上により、最高裁判所は、本件出勤停止処分は、重すぎるものとはいえず、懲戒権の濫用とはいえないから、有効なものであると判断しました。
 そして、出勤停止処分を受けたことを理由とする降格処分についても、出勤停止処分が有効である以上、懲戒権の濫用とはいえず、有効であると判断しました。

 では、この最高裁判決を受けて、会社はセクハラ問題について、どのように対処していくべきなのでしょうか。

被害申告がなくとも積極的に対応する

 まず、会社には、雇用契約に付随して、従業員に対する安全配慮義務の一貫として、職場環境に配慮すべき義務があります。
 会社がこれを怠れば、場合によっては、従業員に対して損害賠償をしなければなりません。
 本件最高裁判決の事案のように、被害者側が明確に拒否の姿勢を示していなかったとしても、最高裁が指摘するとおり、被害者は、職場における人間関係の悪化等を考慮して、拒否の姿勢を明確に打ち出すことは困難なものです。
 会社としては、一見、被害者側が明確に拒否していなかったとしても、性的な言動がなされている事実が確認されるのであれば、セクハラであるとして、注意・警告等しかるべき対処をする必要があります。

セクハラ禁止規定を設け、セクハラ予防の研修を実施する

 従業員に対して、懲戒処分を行う場合には、事前に注意や警告がなければ、無効と判断されてしまうことの方が多いのが実情です。
 したがって、セクハラの場合であっても、可能であれば、処分を行う前に、対象者に対して、注意や警告を行うべきでしょう。
 しかし他方で、本件のように、被害が発覚した時点で、長期間にわたって加害行為が行われていたなど、その被害が深刻であるような場合には、警告なくして懲戒処分を行わざるを得ません。
 このような場合、本件最高裁判決において指摘されたように、セクハラ防止の研修を行っていたり、服務規程や就業規則に明確にセクハラを禁止する記載がある場合などは、事前の注意・警告がなくとも処分が有効になる方向に働く要素となりえます。

証拠がないからといって放置しない

 本件で処分が有効とされたのは、長期間にわたる執拗な言葉によるセクハラが事実として認定されたからです。
 セクハラには、公然と行われるものもありますが、第三者がいない密室的な状況で行われる場合の方が多いものです。
 最近は、このように第三者がいない場合であっても、被害者がスマートフォンなどで録音して証拠をとっているケースも増えていますが、依然として、大多数の場合には、客観的証拠が残っておらず、事実の認定が困難な事案が少なくありません。
 たとえ客観的な証拠がなくても、会社としては、真相を確認すべく、当事者から十分な聴き取りを実施しなければなりません。
 聴取の結果もさることながら、会社として、しかるべき対応をしたかどうかが重要なのです。

 実際の聴取においては、加害者がセクハラ行為を認めた場合には、具体的事実を記載して、調書として書面化し、加害者の署名押印を得ておきます。
 他方、被害者に対する聴き取りの際には、同性の女性従業員が行うこと、不必要に何度も聞き取りを繰り返し、さらに被害者を傷つけないように配慮すること、調査を無理強いしないことなど十分な配慮が求められます。

                                    弁護士 上 将倫

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上将倫(弁護士)

弁護士法人 松尾・中村・上 法律事務所

依頼者にしっかりと向き合い、依頼者と一緒に最良の解決を目指す。離婚問題、男女間トラブルについて特に経験が豊富で、高い解決力をもつ

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