男女間トラブル事件簿その11~死亡した内縁の夫名義の家に内縁の妻は住み続けることができるか
最近では少なくなってきているようですが、婚約に際し、男性側から女性側へ、結納金として一定額のまとまったお金を贈ることがあります。
このように、婚約に際して結納金を贈っていた場合、婚約を解消するとなると、女性側は、受け取った結納金を返さなければならないのでしょうか。
結納金を返還すべきなのかどうかについては、まず、「結納」とは、法律的にどのような意味を持つ行為なのか、ということに立ち帰って考える必要があります。
この点については、色々な考え方がありますが、判例は、「結納は、婚約の成立を確証し、併せて、婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与である」(最高裁昭和39年9月4日)としています。
これを前提とすると、結納金の授受が、「婚姻が成立した場合」における情誼を厚くすることを目的とするものである以上、婚約が解消された場合には、もはや婚姻が成立することはないわけですから、結納金の目的が失われることになります。
目的を失った結納金の授受は、法的には「法律上の原因がない」(その授受を法的に保護すべき理由がない)ものとなるため、女性側が受け取った結納金は、不当利得として、男性側に対して返還しなければならないのが原則です。
しかしながら、婚約解消に至った原因が、もっぱら結納金を交付した側にあるような場合、例えば、男性側の浮気や、自分勝手な心変わり等のような場合にまで結納金の返還請求を認めることは、社会常識に反します。
そこで、裁判例では、以下のように、「信義誠実の原則」(民法第1条2項)を根拠として、婚約解消に責任のある側からの結納金返還請求権については、制限をかけています。
○ もっぱら、結納金を交付した側に責任がある場合には、結納金の返還請求はできない(東京高裁昭和57年4月27日判決,大阪地裁昭和41年1月18日判決)。
○ 双方に責任がある場合に、双方の責任を比較して、結納金を交付した側の責任の方が重いときには、結納金の返還請求は認められない(福岡地裁小倉支部昭和48年2月26日判決)。
以上のように、婚約が解消された場合の結納金の返還請求は、原則として可能であるというのが理論的な結論ではあるものの、実務的には、婚約解消に至ったことについての責任の所在、どちらに責任があるのか、双方に責任がある場合には、どちらにより重い責任があるのかによって、その判断が分かれます。
したがって、結納金の返還を巡る実務においては、責任の所在の判断の前提となる、婚約解消に至る事情がどのようなものであったか、そして、それを証明できるのかどうかが、その結論を大きく左右する、非常に重要なポイントになります。
弁護士 上 将倫