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コラム

男女間トラブル事件簿その10~非嫡出子(婚外子)の相続分

2014年10月23日 公開 / 2021年2月24日更新

テーマ:男女間トラブル事件簿

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き相続問題

 「非嫡出子」(結婚していない男女の間に生まれた子。婚外子)の相続分については、かつての民法900条4項但書の規定によって、永く、「嫡出子」(結婚している男女の間に生まれた子)の半分とされてきました。
 以下、事例をもとにご説明しましょう。

 男Aさんが、女Bさんと結婚して、子Cさんをもうけましたが、ほどなく男Aさんと女Bさんは不仲になり、結婚後5年足らずで離婚し、子Cさんは、女Bさんが引き取りました。
 その後、男Aさんは、女Xさんと交際を開始し、籍は入れなかったものの、事実上、夫婦として生活をともにする中(内縁関係)、その間に子Yさんをもうけ、男Aさんは、子Yさんを認知しました。
 男Aさんと子Yさんは、子Yさんが結婚するまで、約30年間にわたり、親子として暮らしをともにしました。
                事例相関図
 このような事例において、男Aさんが6000万円の遺産を残して亡くなった場合、子Cさんの相続分が4000万円となる一方、子Yさんの相続分は、男Aさんと女Xさんが籍を入れていなかった一事をもって、子Cさんの半分である2000万円とされていたのです(なお、内縁の妻である女Xさんには相続権はありません)。

 この非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とした民法の規定については、憲法が定める「法の下の平等」に反し、違憲であるとして、これまで何度も、最高裁判所で争われてきましたが、なかなか違憲であるとの判断が示されるには至りませんでした。
 しかし、結論としては合憲であるとの判断がされてはいるものの、その判断には、将来的には結論が覆る可能性をみてとれるような反対意見が付されていました。

 平成7年には、大法廷が、当該民法の規定について、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったもので、合理的な理由のない差別とはいえず、合憲であると判断していますが、5名の裁判官が少数意見で、これに反対していました。
 合憲の結論をとった多数意見に立つ裁判官も、社会の変化によって、徐々にこの規定の合理性が失われつつあるとの趣旨の指摘をしています。
 その後も、小法廷が、辛うじて合憲判決を出し続けてきましたが、個別の意見では、同じような指摘が繰り返しなされていました。

 こういった中で、ついに、平成25年9月4日、最高裁判所大法廷は、遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件の決定において、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定は、憲法に違反するとの判断を全員一致で示すに至ったのです。
 その理由としては、「家族の形や結婚についての意識が多様化し、子を個人として尊重し、子にとって自ら選択ないし修正できない事項によって、子を不利益に扱うことはできないとの考え方が確立した」ことがあげられています。

 そして、この判断の舞台となった事案が、平成13年7月に相続が開始された事案であったことから、遅くとも、この平成13年7月の時点では、嫡出子と非嫡出子を差別する合理的な理由は失われていたとしています。
 他方、これまでに最高裁判所が行ってきた合憲判断は、平成13年7月より前に相続が開始した事案についてのものであり、その合憲性を肯定した判断を変更するものではないとしました。

 では、平成13年7月以降に相続が開始し、この平成25年9月4日の最高裁の決定までに、すでに遺産分割が終了している場合に、この違憲判断はどのように影響するでしょうか。
 12年もの歳月が経過しているわけですから、その間に、多くの非嫡出子が相続人となった遺産分割があったはずです。

 最高裁決定は、平成13年7月以降に開始された相続においては、相続分の差別は憲法違反であるとしている以上、非嫡出子の相続分を差別している民法900条4項但書の規定は、この平成13年7月の時点で、憲法違反として無効となり、平成13年7月以降に、民法900条4項但書に基づいてなされた遺産分割も、また無効になるように思えます。

 しかしながら最高裁判所は、この点について、「法的安定性を確保する」という理由から、「すでになされた裁判や合意等によって確定的になったものといえる法律関係には影響を及ぼさない」と判断しています。
 解決済みの事案について、この決定の影響を及ぼすと、「法的安定性を害する」、つまり、混乱が起きるから、そういうことは避けるべきだというわけです。

 例えば、10年以上前に解決した遺産分割をやり直すとなると、大変です。
 場合によっては、当時の相続人が既に亡くなっていることもあるでしょうし、既に受け取った遺産がそのまま残っていることは、まず考えられません。
 ですから、解決済みの事案については、影響を及ぼさない、やり直しはできないとしたわけです。

 他方、平成13年7月以降に開始した相続で、裁判や合意(明示のものだけに限らず、黙示のもの、つまり暗黙も了解も含む趣旨です)が成立していない場合は、嫡出子と非嫡出子を差別することはできず、法定相続分は平等ということになります。

 この最高裁判所の決定を受けて、国会は、平成25年12月4日、非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする民法の規定を撤廃する法改正を行い、同月11日にこれが施行されていますから、これ以降に相続が開始した事案については、法律に則って、遺産分割を行えば足りるようになっています。

                                    弁護士 上 将倫

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