離婚事件簿その11~未成年子との面会交流調停(後編)
離婚事件のご相談において、当然に相手方に慰謝料を請求する、請求できると思っておられる方は意外と少なくありません。
しかしながら、この「慰謝料」、離婚に至った原因について、相手方に不法行為がある場合に認められるものであって、相手方に不法行為がない以上は、慰謝料の請求はできません。
単なる「性格の不一致」による離婚の場合には、慰謝料など発生しないのです。
もっとも、相手方から「性格の不一致」を理由に、一方的に離婚を迫られている場合、一定のお金を支払ってもらうことを条件に離婚に応じるケースはあります。
しかし、支払ってもらうお金は、あくまで紛争を解決するための「解決金」であって、やはり「慰謝料」ではないのです。
実際に慰謝料請求の対象となり得るのは、婚姻当時、相手方に暴力や暴言、不貞行為(不倫、浮気)、性交渉の拒絶、悪意の遺棄などがあった場合で、その金額については、決まった算定方法があるものではなく、離婚に至る事情や当事者双方の経済状態、子どもの人数、婚姻期間などを総合的に考慮して算定します。
典型的な事例についての慰謝料の相場は、概ね以下のとおりです。
暴力、暴言がある場合:数十万円~数百万円
いわゆるドメスティックバイオレンス(DV)の事案が典型です。
暴力によって負った傷害の程度、暴力・暴言の頻度、期間、暴力行為の態様、悪質性などの事情を考慮して算定されます。
暴言による場合と激しい暴力によって重傷を負った場合とでは、被害結果に大きな差があるように、その慰謝料の金額にもかなり幅があります。
長期間にわたって継続的で悪質なDVが行われている場合には、慰謝料も高額になり得ますが、反面、その立証については難しくなる傾向があります。
不貞行為(不倫・浮気):100万円~300万円
肉体関係を伴う配偶者の不倫・浮気を原因とする慰謝料の請求は、慰謝料請求の実務における代表選手といっても過言ではないくらい、よく取り扱います。
この場合、配偶者のみならず、不倫・浮気相手に対しても慰謝料を請求することができます。
ただ、この慰謝料は、配偶者と不倫相手の連帯責任という形になりますので、どちらかから賠償を受けた場合には、その賠償を受けた範囲で損害賠償請求権が消滅します。
例えば、200万円の慰謝料が発生していたとしても、不倫相手からすでに100万円の賠償を受けているのであれば、請求できるのは残額の100万円だけです。
不貞行為が長期間にわたって継続されていたような場合には、慰謝料も高額になり得ます。
性行為の拒絶:数十万円~100万円程度
性行為は、夫婦が通常行うべき営みであると考えられていることから、理由のない性行為の拒絶が繰り返されている場合には、慰謝料の請求が可能となります。
例えば、結婚当初から何の説明もなく性行為を拒み続けているといった場合には、慰謝料の請求対象となり得るでしょう。
もっとも、長年、夫婦いずれも性行為を求めることがなかったのに、ある日、突然、性行為を求めたところ拒絶されたというような場合まで、直ちに慰謝料の請求対象となるものではありません。
悪意の遺棄:50万円~数百万円程度
正当な理由もなく同居に応じず、その間、生活費の支払も行っていないような場合、「悪意の遺棄」といって、離婚の原因となり、慰謝料の請求対象にもなり得ます。
悪意の遺棄に至った事情、遺棄している期間、その間の交渉状況などを総合的に考慮して算定されます。
夫が突然、家を飛び出して、10年以上も家族を顧みず、生活費も全く支払っていないというような場合には、高額の慰謝料もあり得るでしょう。
以上の慰謝料の相場については、あくまで目安であって、裁判例の中には、1000万円近い金額を認めたものもあれば、相場より低い慰謝料しか認められない場合、あるいは、慰謝料請求自体を棄却した事例もあります。
慰謝料は、事案により、そして事情により、大きく結論が異なってきます。
自己判断ではなく、専門家である弁護士の話を聞いた上で、対応を決められることをお勧めします。
弁護士 上 将倫
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