男女間トラブル事件簿その3~妊娠中絶をした場合、慰謝料や中絶費用等を請求できるか(前編)
交際相手との男女交際の解消にあたり、深刻なトラブルが生じてご相談に来られる事件は少なくありません。
こういったトラブル事例は、大きくは以下のように類型化できるでしょう。
ストーカー・暴力型
相手が別離を受け入れられず、交際の継続やヨリを戻すことの要求や、謝罪の強要、逆恨みによる復讐心によるつきまとい、大量のメールの送信、常軌を逸した頻繁な電話、嫌がらせや脅迫的言動をしたりするケースです。
また、別れ話を持ち出すとパートナーから暴力を振るわれるため、恐怖心からなかなか別れられないとか、実際に殴られて怪我をさせられたという事案もあります。
金銭トラブル型
別れること自体は了解しているものの、相手方が、交際のために支出した費用の返還や、同居時期に負担していた生活費の精算、精神的苦痛に対する慰謝料などの名目で金銭要求をしてくるケースです。
このような事案の多くは、金銭支払請求についての法的根拠が乏しいため、支払を断固拒否するべきです。
一方で、交際中に、交際相手から多額の金銭を、借用書をきちんと差し入れるなどして、借用ではないと言い逃れできないような形で借り入れた人が、別れるにあたっても返済できずにトラブルとなるケースも多く見受けられます。
婚約破棄型
交際中に、結婚の約束をしたはずなのに、それが反故にされたということで揉めるケースです。
法律的には、婚約は、当事者間で結婚について真摯な合意をすれば成立すると解されますが、実務的には、本人同士で単に「結婚しようね」と話し合っていたというだけでは足りず、結納や結婚式の予約、そこまでいかずとも両家で正式に結婚についての挨拶をしたなどの一定の社会的行為が伴わなければ、正式な「婚約」として法的保護の対象として認められる(具体的には、婚約の破棄に関しての損害賠償請求が認められる)には至らないという傾向にあります。
また、婚約破棄系の類似パターンとして、「相手が『自分は独身だ』と言うので、それを信じて、長期間交際してきたのに、実は配偶者がいた(既婚者だった)」という事案もあります。
この場合、出会い系サイトで出会ったケースと、いわゆる「合コン」で出会ったケース、それなりにフォーマルなお見合いパーティーで出会ったケースなどで、評価が相当変わります。
妊娠、中絶型
交際中に、双方が想定していない妊娠をしてしまったことを契機に、子どもを産む産まない、交際の解消や結婚をするかどうか、慰謝料や養育費等の金銭の支払等々で、紛争化するケースです。
紛争の内容や解決までの道のりはケースバイケースですが、いずれにしましても、そのような想定外の妊娠となった場合、男性側は、女性側との間で、真摯な話し合い、中絶手術をする場合は、その費用その他医療費についての相当程度の支払、その他精神的苦痛や経済的負担の不利益を軽減するような措置の実行を、出産する場合には、認知や養育費の支払についての責任ある対応等を十分になすべきでしょう。
以上のような男女間トラブルは、どうしても、「つきあっていた相手との間の個人的な問題」として、ご本人が抱え込んでしまいがちです。
そうこうしている内に状況が悪化したり、看過できない被害が発生したりしてしまいます。
トラブルが深刻な段階になったと思われたら、我慢したり、独力で解決しようとするのではなく、まず何よりそのような深刻な関係・環境から早く脱出することです。
交際関係にある(あった)男女間という閉ざされた空間や人間関係においては、非常識な価値観や無茶苦茶な言い分が大手を振ってまかり通っています。
そこから一歩踏み出して、第三者や社会の価値観や常識を自分の中に入れましょう。
そして、その問題を日の当たるところにさらし、健全な常識やしかるべき法律が適用される局面に持ち込めば、解決は自ずと見えてきます。
まずは、私たち弁護士や、場合によっては行政窓口、警察等に相談し、必要な救済や保護を求める。
この最初の一歩を踏み出してください。
弁護士 中村正彦