大人のための住まい教育実践に向けて①
4月5日にスタートし、6月7日に全10話を終えたNHKドラマ「正直不動産」。登坂不動産の永瀬(山下智久)は、成約のためには嘘もいとわない№1営業マン。ある日、アパートの建設予定地にあった祠を壊したことから、祟りで嘘がつけない人間になってしまいます。そのため、言わなくていいことまで正直に何でも話す永瀬に、お客様は激怒し、契約寸前の案件まで次々と破綻してしまいます。家を売る人、それを求める人の痛快な人間ドラマです。
同番組のキャッチコピー「不動産業界、そして家をめぐる人間模様を描く、痛快お仕事コメディ!」のように、思わず笑ってしまう演技やセリフが頻繁に出てきます。突然、主人公の永瀬に風が吹き、「この物件は事故物件です」と正直に曝露する場面など、コメディ要素満載です。
その一方で、不動産の特色を非常にわかりやすく説明し、それは消費者教育の番組でもありました。例えば、賃貸住宅のサブリース(オーナーから不動産業者が一括借上げ・家賃保証したうえで賃借人へ転貸する方式)のメリットとデメリットについて、契約書の文言まで含め丁寧に解説されていました。他にも、床下の瑕疵(漏水)を事例に取り上げ、物件のインスペクション(建物調査)とは何かが視聴者にも分かりやすかったはずです。
ところで、不動産業者はこの番組をどのように評価しているのでしょうか。嘘つき不動産は例外で、多くは正直不動産だというのが多数意見だと推察します。むしろ業界のマイナスイメージが広がることを懸念する声も聞きます。視聴者にダーティな印象だけを残すとしたら、それは誤ったメッセージと言えます。
しかしながら、詐欺まがいの嘘つきかどうかとは別に、勉強不足の営業マンがいることは否めません。以前、建物の耐震性と税制優遇の関係や、リフォーム工事の内容(断熱改修の箇所や内容など)を質問したところ、納得する回答ができない担当者に出会ったこともあります。
また、消費者にはどう映ったのでしょうか。同じような経験や共感した場面も少なくなかったかもしれません。売却済の物件の写真や一つの写真を異なる複数の物件で使用するといったおとり広告は、残念ながら未だ無くなっていません。番組であったような売主が依頼する調査会社のインスペクションの客観性がどこまで担保されているか、といった課題もあります。更に「かぼちゃの馬車」事件のようにサブリース契約の家賃保証を巡るトラブルは後を絶ちません。改めて、契約内容をしっかり読み込む」とか「不動産投資は甘い話ばかりではない」ことを実感されたのではないでしょうか。
私なりの見方ですが、住まい教育とは、器としての住まい(建築)、潤いとして住まい(暮らし)、資産としての住まい(経済)のバランスが必要です。これまでの住まい教育は、住宅を商品や資産といった経済的に捉える学びが少々足りなかったのではないでしょうか。
正直不動産には、消費者に分かりやすく勉強になったという評価があります。「一つ一つの住まいには一つ一つの生活がある」という最終回のセリフに象徴されるように、住宅選びは人生の選択だという点が番組のコンセプトだろうと思います。同時に住宅を取引の対象として取り上げ、そこに内在するリスクをコミカルに伝えている点もこれまでの番組にはない特色でした。
消費者の多くは住宅の売買や賃貸の経験は少なく、さりとて経験を頻繁に積み重ねられるものでもありません。多くの消費者は、その場面に直面して初めて真剣に考えるというのが実態です。また、置かれた住宅環境は一人ひとり異なります。このような状況で、誰に、どのような住まい教育を実践するかは簡単ではありません。
その意味で、正直不動産のような番組がテレビ放映される影響力は小さくないと思います。是非、続編を期待したいところです。