デジタル社会と高齢者

菊池浩史

菊池浩史

菅総理は2021年秋までにデジタル庁を創設する意向です。平井卓也デジタル改革相は、行政のデジタル化を進めるだけではなく、民間の交通や金融など14分野と相互にデータをやりとりできるようにすると表明しています。一例として、転居を役所に届け出れば、電力や水道、ガスなどの住所変更手続きが自動でできるサービスなどを想定しています。世の中がデジタル化に向けた動きを加速するなかで、人口の多くを占める高齢者への視点を忘れてはなりません。

情報収集にあたっては、年代を問わず、インターネットが広く普及しています。総務省によると、「健康や医療について調べたいことがある場合」や「商品やサービスの内容や評判について調べたことがある場合」に、「インターネットの検索サイト(Google やYahoo等)で検索する」という回答が、60代以上でも圧倒的多数(約70%)を占めています。この割合は、20代以下や30代と殆ど変わりません。

またみずほ情報総研によると、高齢者以外はWEBサイトを使った情報収集に一極集中する傾向があるのに対して、高齢者は人によって情報収集の方法はさまざまに分散する傾向にあります。高齢者は、「WEBサイト」で情報収集する者が約20%と最も多くなっていますが、次に多い「新聞の記事・広告」「新聞の折り込みチラシ」の約17%、「店頭」の約15%、「友人や知人」の約14%と比べ大差は見られません。ところが高齢者以外は、約50%の者が「WEBサイト」を最も多く利用しており、次に多い「店頭」は約17%に留まっています。このことから高齢者のインターネットの利用割合は相対的に低いものの、今後はインターネットを利用する世代が高齢期になっていくことから、それを活用する高齢者としない(できない)高齢者とに二極化が進む可能性があります。

一方、情報通信技術の進展により、消費者が情報を発信し共有することが容易になりました。多くの情報源や選択肢から消費者の価値観に合った意思決定ができるメリットがある一方、大量の情報や選択肢からどのように必要な情報を選択して意思決定するか、という問題が生じやすくなっています。そのため膨大な量の情報が、意思決定にプラスに作用する閾値を超えて情報過負荷を誘発し、意思決定を混乱状態に陥らせている恐れがあります。

ところで高齢者住宅は、物財だけではなく、サービス財としての性格も有しています。それに住宅政策や介護保険制度などの影響により、住宅の仕様や入居資格、サービス内容などの変動があり得ます。そのため一般の住宅に比べて、収集する情報や検討する事項が多く、その内容も複雑になってきます。よって、情報を自己の目的に適合するように使用する能力が相対的に低い高齢者にとって、情報探索の負荷が生じやすい財であると考えらます。

住まい選びの段階でも当然にデジタル化が進み、今後ますます情報の一元化や効率化が図られることは間違いありません。そのなかで高齢者の住まい選びには、「見やすい文字」「わかりやすい表現」「簡単な操作」「文字に加えて音声や色など五感に働きかける機能」など、デジタルのノーマライゼーション化が欠かせなくなります。

団塊の世代よりも下の世代、いわゆる現在の前期高齢者は、その上の世代と違ってデジタルへの親和性は高いと言われています。しかし年齢を重ねれば、誰もが心身の衰えは否めません。同時にデジタル技術も確実に進歩するなかで、ついていけるかという不安は付きまといます。加えて忘れてならないことは、高齢者は個人差が大きいということです。高齢者を一律に議論することは避け、心身の衰えに寄り添っていけるデジタル化を浸透させる必要があります。

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住まいの消費者教育研究所

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