金融教育×住教育から空き家対策を
今回は、有料老人ホームを不動産事業の視点から考えてみます。
有料老人ホームとは本来、介護事業者が行う介護事業であることは明らかです。ところが有料老人ホームでは、介護保険サービス以外にもさまざまな生活支援サービスや食事の提供などが行われており、ホスピタリティサービス業という一面も有しています。それは高額物件になるほど、その傾向は強まります。また土地や建物を有効活用して収益を獲得するという点に着目すれば不動産事業でもあります。
有料老人ホームの権利関係には、土地・建物ともに所有しているケース、土地を借地して建物は所有しているケース、土地・建物ともに賃借しているケースがあります。土地オーナーならびに建物のオーナーは、不動産事業者としての顔があります。
建物は通常、経年により減価します。ところが有料老人ホームでは、経年による稼働率や価格への影響が一般の不動産に比べて限定的になると考えられます。減価要因には物理的要因、社会的要因、経済的要因がありますが、そのうち経済的要因は運営能力によって大きく左右されます。結果として減価の幅は大きく異なってきます。有料老人ホームでは介護サービスや生活支援サービスの占めるウエートが大きく、その運営の良し悪しが不動産の生み出す収益に大きく影響を与えます。一般的な賃貸住宅事業やオフィス賃貸事業よりその影響は大きくなると考えられます。よって稼働率が高まりサービス水準やコミュニティが安定すると、建物の経年劣化があっても不動産価格が上昇することもあるわけです。
ところで有料老人ホームのサービスやコミュニティの水準は事業者によってばらつきが大きく、標準的な水準の判断が難しいと言われています。その結果、一般的な不動産に比べて、有料老人ホームの価格の幅は大きくなりがちです。また有料老人ホームのキャッシュフローは入居者属性(年齢構成、要介護度など)の影響を大きく受けます。例えば、高齢期の比較的早い段階で入居した者が多い有料老人ホームでは、一時金の償却を終えた後の居住期間は長期化します。それは家賃収入の未収入期間が長期化することを意味します。しかしサービス水準を低下させることは容易ではなく、経営を圧迫することに繋がります。いわゆる長生きリスクと呼ばれるものです。その他に入居者の介護度の変化によって保険収入が増減する、などの変動要因(リスク)も内包しています。
このように有料老人ホームの運営を理解するには、介護事業だけではなく不動産事業も併せた両面で理解する必要があります。