昼寝が経営課題になる

間もなく6月を迎えます。
新入社員は職場に慣れはじめ、中堅社員は今期の目標達成に向けて、
スピード感をもって業務に取り組んでいる頃でしょう。
表向きは順調に見えても、社員の心の内では「思っていたのと違う」
「この環境で続けられるだろうか」といった思いが、
静かに芽生えていないでしょうか。
その小さな揺らぎが、やがて“離職の準備”へとつながり、
兆しが表面化するのが、ちょうど6月ではないでしょうか。
その背景には、単なる不満やミスマッチでは説明しきれない
「心身の限界」があると推測しています。
特に見過ごされがちなのが、「睡眠の質の悪化」サインです。
この様な小さな変化を見逃してしまうと、
“突然の離職”という驚きの形で表面化します。
企業にとって離職は、重大な“損失”です。
採用コストの増加、業務ノウハウの喪失、チームの崩壊
それらは目に見えにくいながら、確実に経営に影響を与えます。
では、なぜ6月に社員は疲弊し、辞める決断に至るのか
4月…新年度が始まり、新体制が走り出します。
5月…最初の課題やストレスに直面し、ゴールデンウィークの後、
日常の厳しさを再認識する。
そこに梅雨特有の気圧変動や湿度による睡眠乱れなどが重なり、
心身にダメージが蓄積されていのが6月です。
この時期によく見られるのが、いわゆる「6月病」。
医学的な正式名称こそありませんが、現場では「モチベーションの急低下」
「体調不良」「集中力の低下」「感情の不安定さ」など、明らかな兆候が観察されています。
この状態が長引けば、メンタル不調、そして突然の離職へとつながりかねません。
では、社員の内面で何が起きているのか。
それは「回復しない疲労」です。
いくら休んでも疲れが取れない。週末は寝るだけで終わり、
月曜の朝には身体が重く、出社しても頭が働かない。
その慢性的な疲労の根本にあるのが、「睡眠の質の低下」なのです。
「睡眠不足」は、あまりにありふれた言葉になりすぎて、軽視されがちです。
しかし、睡眠とは単なる休息ではありません。
睡眠は、
☆脳の老廃物を除去
☆感情の整理
☆記憶と記録の整理
☆ホルモン分泌による
免疫、自律神経を整える
「生体のリセット機能」です。
この機能がうまく働かないまま働き続ければ、社員は静かに崩壊します。
「眠れていない人材」は、パフォーマンスを発揮できず、役割を担うことができません。
昭和的な価値観では、睡眠は「自己管理」とされてきました。
しかし、いまや企業が社員の「働ける状態」を整える時代です。
睡眠はもはや、個人任せにしてはならない「経営課題」です。
「健康経営」が広く浸透してきた背景には、
「体調の安定=組織の生産性向上」という相関が、
実際のデータとして証明されてきたことがあります。
睡眠もその例外ではありません。
むしろ、もっとも基礎的で、もっとも見落とされてきた領域です。
睡眠マネジメントの実践例
① 社員向けの「睡眠の基礎知識」
②セミナー 管理職への「睡眠不調サインの見抜き方」
③研修 季節ごとの睡眠コラムを社内報・イントラネットに掲載
③睡眠習慣を可視化する簡易チェックシートの配布
これらは決して大掛かりな制度ではありません。
むしろ、「睡眠」という言葉を意識にのぼらせるだけでも、
行動は変わり始めるのです。
実際の導入効果:
欠勤率:前年より30%改善
離職率:20% → 7%に減少
ヒューマンエラー:42%削減
ある企業では、睡眠改善プログラムを導入した部署の満足度が、
全社平均を上回る結果も出ています。
睡眠は、感覚的・情緒的なアプローチではありません。
それは、もっとも科学的で、戦略的な“経営資源”のひとつです。
では、なぜ今、企業が睡眠に向き合うべきなのか。
その答えは明快です。
環境変化のスピードが速い今、社員一人ひとりの「レジリエンス(回復力)」こそが、
組織の競争力を左右するからです。
どれほど優秀な人材でも、「眠れていない状態」では、持つ力を発揮できません。
睡眠は「能力発揮の前提条件」です。
それを無視することは、「意図的に損失を選ぶ経営」と同義です。
6月は静かにやってきます。
そして、静かに人が辞めていく──。
しかし、それを防ぐ手立ては、すでに私たちの手の中にあります。
社員の「眠り」に目を向けましょう。
それは単なる優しさではありません。
それは、リスクマネジメントであり、組織の持続可能性を高める“投資”です。
参考資料
● SOMPOホールディングス(2020年・健康経営優良法人)
睡眠改善をテーマとしたeラーニングやセルフチェックの導入
結果、プレゼンティーズム(出社しているが集中できない状態)約15%改善
(出典:経済産業省 健康経営事例集)
● 『日経Gooday』や『厚生労働省・働く人のメンタルヘルスサイト』
睡眠とパフォーマンス・メンタル不調・離職率の相関に関する論文多数



