ゴルフのプロツアー ギャラリー(観客)の沈黙

谷光高

谷光高

テーマ:プロゴルフの観戦マナー

ギャラリーのシャッター音に苦言

毎年、何人かのプロ選手が“ギャラリーの観戦マナー”について苦言を呈し、SNSを利用してマナーの遵守を広く呼び掛けているのが目につきます。
苦言
とくに、グリーン周りやティーショット時などでのシャッター音について多く言及されています。
現代はスマートフォンで、いつでもどこでも気軽に撮影でき、リアルタイムでネット上に載せることができるという時代。
「携帯電話の使用禁止」、「カメラ撮影禁止」の看板はあちこちにあり、さらに選手がアドレスに入るときには、ボランティアや競技関係者の人たちが一斉に「お静かに!」「QUIET」の看板まで上がりますが、なかなか徹底できません。

これだけ、大勢の人がマナー啓発をうたっているのだから、観戦している人たちは守らなくてはいけませんよね。緊張感を持ってプレーする選手の邪魔はしてはいけませんよね。
お静かに

ギャラリーに対する沈黙要求への皮肉

「これが当然のゴルフマナーだ」と思っています・・・が、ゴルフエッセイ本でちょっと違う視点の意見がありました。

新聞、雑誌などで数多くのゴルフについてのエッセイや歴史を書かれ、またプレーヤーとしてもトップアマだった作家 夏坂健さん。亡くなられてからすでに15年を経ていますが、夏坂さんのエスプリに満ちた文章は今でも多くの読者を魅了しています。私もその一人です。

その夏坂さんがまとめられた「ゴルファーを笑え!」という本では、プロゴルファーを・・・
“静寂を求める特権を持って生まれたと誤解している種族”と皮肉っています。

車や電車が行き交う音や工場や作業所から出る音。
電話やOA機器の音、話し声に笑い声、さらには怒号などが充満する会社内での騒音。
屋内外問わず、世間一般の人々は騒音の中でたくましく生きています。

夏坂さんは「私たちは物音の中で生活を営む種族だ」と言っています。
「ところが」として、
「ほんの一握りではあるが、地球上に“静寂を求める特権”を持って生まれたと誤解している種族が生息している。思えば、これほどわがままな話はない」と。

ギャラリーマナーとプロの罵詈雑言

ここで、米ツア-22勝、メジャー大会4勝のレイモンド・フロイド(Raymond Floyd)が、例として上がっています。
レイモンドがショットしようとしている50ヤードも遠方から一人の女性ファンがインパクトの瞬間をカメラに収めようとシャッターを切りました。ボールはフェースに薄く当たって、グリーン手前のバンカーに落ちました。
すると彼は、女性ファンのところまで歩いていくと、押し殺した声でこういったそうです。

「もう一度やったら、アイアンショットをお見舞いするぞ」

真実かどうかは定かではありませんが、もし、ボールがピンにからんでいたら、レイモンドの振る舞いは違っていたはずと夏坂さんは書いています。

また、今年の2月に83歳で亡くなった米ツアー通算51勝、メジャー大会3勝のビリー・キャスパーは、世の中のカメラマンすべてが一夜にしてポックリ全滅すればいいと考えていたとあります。とくにまずいショットが出た後に、この思いが強くなっていたそうです。
巨漢のビリー・キャスパーがシャッター・ノイローゼとは意外ですが、外見だけで判断はできませんよね。

「いま確かにシャッターを切った奴がいる」
「あのカメラマンをつまみ出してくれ。奴が気になって集中できないんだ」

キャスパーは、絶えずカメラマンに文句をつけていて、念願のマスターズに優勝した次の週でも、またもやシャッターの音が耳に飛び込んだとわめき始めたそうです。
デイブ・ヒル(※ジェームズ·デビッド·ヒル 米ツアー13勝)がそのとき一緒でした。
デイブは、カメラマンを睨み付けているキャスパーに向かって、「まわりに人がいればセキやクシャミが出て当然、物音が気になるのは、その人のプレーの仕方に問題がある」と主張しました。

ある試合中、マスターズ2勝のホセ・オラサバルがパッティングをする直前、すぐ近くでクシャミをした男性がいました。
するとホセはアドレスをやめて、「邪魔しないでくれ」と不機嫌な声を出しました。
後になって、この話を聞いた先輩プロが「お前はチンピラか。わざとクシャミができる人間などいるものか。なぜ、そのとき“お大事に”と言えないんだ」とホセを激しく叱ったというエピソードもあります。

こうしてプロゴルファーは、数十年に渡って“ギャラリーの沈黙”に甘やかされてきました。
あるプロは、「これから不滅のショットを披露してやるから、ギャラリーは銅像のように動くな、それがゲームを観戦する者の義務だ」と豪語しました。
また別のプロは、ラフでおしゃべりに熱中している女性にスペア・ボールを投げつけて200ドルの罰金を科せられたという話もあります。

日本でも例外ではありません。
「うるさい!」と文句をいい、動いたギャラリーを睨み付け、ときには家族連れで観戦にきている若い夫婦に向かって、「その子供何とかしてくれよ!」と怒鳴ったプロもいたそうです。
「何とかしろとは、その場に穴でも掘って子供を埋めてしまえということだろうか。」と夏坂さんは書いています。
日本ギャラリー
「なぜゴルフファンは。これほどまでに邪険に扱われながら観戦に出向くのか?私には不思議でならない」と、先述のデイブ・ヒルは自分がプロの身でありながら首をひねっています。

間近で見るプロのプレーを楽しみたいギャラリーへの応え方

試合に出場しているプロは、一般ギャラリーがどうやってゴルフ場にやってきて、どんな思いでプロのプレーを楽しみに見に来ているのか、そしてどんな状況に置かれながら見ているのか考えたことはあるのでしょうか。

早朝から車を走らせ、ゴルフ場からはるか遠く離れたギャラリー専用の駐車場に停めさせられ、ゴルフ場とのピストン運転バスに詰め込まれたり、何十分も歩かされて、ようやくコースに到着すると、ギャラリースタンドは屋根がなく、もちろん“関係者カード”がないのでクラブハウスに入ることもできません。コース内のトイレは簡易トイレでどこも大行列。
コース内では人跡未踏の急傾斜のラフを転びそうになりながら歩かなければなりません。
だから、少しでもお目当てのプロの近くでショットを見なければ割が合わないと、人垣のあいだから首を突っ込む。するとプロが「動いた!」と睨むのです。
これに何千円と払っているのですから、せっかく来た足跡を残したいという思いからシャッターを切りたくなる気持ちも分からなくはありません。

他の人の迷惑にならない、物音を立てない、これはマナーの鉄則です。
プレー中に携帯電話の着信音が鳴るのは、間違いなくマナー違反です。
シャッター音ももちろんマナー違反です。

しかし、グリーン周辺に幾千もの人間がいれば、息する音だって馬鹿にならないはずです。
風邪をひいている人もいれば、おなかが減って「グ~」とおなかの鳴る人もいるはずです。
すべての音を消し去って“静寂”の中でプレーすることなど不可能です。
アメリカギャラリー
今、男子プロは人気低迷が長らく続き、女子プロもコロナ禍前の人気絶頂までは戻っていません。

せっかくプロの生のプレーを楽しみに見に来てくれているギャラリーだけに“沈黙”や“静寂”を押し付けていると、どんどんファンは離れてしまうかもしれません。

夏坂さんは、この章を以下のように締めくくっています。
「物音に馴れることが肝心だ。ギャラリー側ばかりに要求しないで、自分たちも努力すべきである。正直な話、プロは世の中にさほど貢献をしているわけでもない。全員があす消えて失くなったとしても、日曜の午後、少し退屈するだけで、世界情勢がこれ以上悪くなるものでもない。」

ゴルフが大好きな夏坂さんだからこその期待の裏返しのような想いがひしひしと伝わってきます。魅せる側のプロゴルファーと見る側のギャラリーとがお互いに配慮を持って、双方が納得いくようにできたらいいですね。

■参考文献
「ゴルファーを笑え!」夏坂健著:新潮文庫
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谷光高
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谷光高(ゴルフ場経営者)

新有馬開発株式会社(有馬カンツリー倶楽部)

一部の人が楽しむゴルフから、誰もが気軽に楽しめるゴルフへ。日本のゴルフ文化を変えるため、ゴルフ初心者へのサポートや子どもたちへのレッスン、学校の授業などを行い、初心者にゴルフを楽しむ機会を提供している

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