レビューから見た強みと弱みの徹底分析【2/5】

【コンペだと思っていた現地打ち合わせ】
先日、沖縄北部で建築中の、プール、サウナ、ジャグジーを備えた新築の一棟貸し宿泊施設について、県外在住のオーナー様と現地で打ち合わせを行いました。この案件は、以前からお付き合いのある清掃会社の方から、「沖縄北部で宿泊事業を開業するオーナー様がいるので、興味があればおつなぎできます」とご紹介いただいたことから始まっています。
ご紹介をいただいたからといって、すべての案件をそのままお引き受けするわけではありませんので、まずは建築中の物件を外から確認し、周辺にどのような建物や宿泊施設があるのか、道路の幅や車の出入りはどうか、近隣との距離はどの程度なのかなどを私なりに調べました。その結果、新築物件であることに加え、プール、サウナ、ジャグジーといった設備を備えており、これまで当社が積み重ねてきた一棟貸し宿泊施設の運営、清掃、建物管理の知見を活かせる可能性が高いと感じたため、ご提案に参加することにしました。
その後、まずは電話でご挨拶を済ませ、以降はメールでやり取りを進めることになりました。オーナー様から依頼された内容に加え、今後必要になると思われることを私の方で整理してお送りし、打ち合わせの準備を進めていきました。オーナー様は本業を続けながら建築や開業準備を進めていたため、かなりお忙しかったのだと思いますが、そのせいもあってか、メールのやり取りだけでは、オーナー様の考えや感情はほとんど見えてきませんでした。
こちらから質問した内容にはきちんと回答していただけるものの、それ以上の話はあまりなく、複数社を比較していることも伺っていましたので、私は完全にコンペだと思っていました。現地で物件を確認し、いくつかの質問に答え、当社の考え方や実績を説明したうえで、最終的に依頼するかどうかを判断されるのだろうと考えていたのです。
【こちらも選ばれる準備をしていました】
コンペだと思っていましたので、私の方も準備をしました。物件の規模や設備だけを見て、単に「高単価で運営できます」とお伝えするつもりはありませんでした。周辺の宿泊施設を調査し、宿泊人数別の予約構成、季節ごとの稼働傾向、初年度から3年目までの収益シミュレーション、レビューを蓄積しながら単価を上げていく運営方針などを整理しました。
特に宿泊人数については、許可上の定員を何名にするかという話と、実際に何名の予約が中心になるかという話は別です。大型の一棟貸し施設であっても、毎回最大人数で利用されるわけではなく、実際には4名から6名程度のグループが予約の中心になるケースも少なくありません。そのため、最大定員だけを基準にベッドやダイニングテーブル、食器、家電を決めてしまうと、日常的な使いやすさを損なうことがあります。
事前にお渡しした宿泊人数のデータは、オーナー様にとって大いに参考になったようで、間取りの使い方や設備購入の判断にも活かしていただいたと後から伺いました。私はコンペに勝つための資料として準備していたつもりでしたが、オーナー様はすでに、その資料を自分の宿泊施設をつくるための判断材料として使っていたのです。
【会ってみると、印象はまったく違いました】
実際にお会いしてみると、メールから受けた印象とは大きく違いました。警戒したり、こちらを見定めたりする様子はなく、こちらの話にも好意的で、建物の細かな部分についても一つひとつ確認しながら話を進めることができました。
特に印象に残ったのは、建築や設計に関する細部までオーナー様自身が理解していたことです。一般的には、建物について質問すると、「設計士に確認します」「建築会社に聞かないと分かりません」となることも多いのですが、今回のオーナー様は、設備の仕様、設計上の意図、今後の工事予定までかなり細かく把握していました。分からないことを業者に任せきりにするのではなく、自分の事業として考え、自分で判断して進めようとしていることが伝わってきました。
一方で、私もすべての質問に賛成したわけではありません。家具や設備については、見た目が良いことと、宿泊施設として運営しやすいことが一致しない場合があります。洗濯できないソファ、汚れが目立ちやすい生地、故障したときにゲスト対応が難しい設備、維持費がかかるものについては、必要性や運用方法を慎重に考えた方がよいと率直にお伝えしました。
質問された内容の中には、営業を考えれば「それで大丈夫です」「良いと思います」と答えた方が話は早かったものもあります。ただ、開業してから汚れや故障、清掃負担、レビュー低下という形で問題が出たときに、「最初に教えてほしかった」と思うことは、私自身もこれまでの運営経験の中で何度もありました。そのため、進めた方がよいことと、進めない方がよいことは、できる限り忖度なくお伝えしました。
【運営、清掃、建物管理を一体で考える理由】
現地での打ち合わせが進む中で、私は意外なことを聞きました。オーナー様は、運営代行、清掃、建物管理までをまとめて当社に任せる方向で、すでに考えていたというのです。
私は数社のうちの一社として面談を受けているつもりでしたので、正直に言えば驚きました。最初からある程度気持ちが決まっているのであれば、事前に教えていただければ、当日のご案内もまた違った組み立てができたと思います。ただ、振り返ってみると、オーナー様は会社の規模や営業のうまさを比較していたのではなく、自分の物件をどのような考え方で運営し、守っていくのかを見ていたのかもしれません。
当社が運営代行、清掃、建物管理を一体で考えるのは、仕事を多く受けたいからではありません。予約管理だけを行う会社、清掃だけを行う会社、建物の修繕だけを見る会社がそれぞれ別になると、問題が起きたときに情報が分断され、対応も遅れやすくなります。
ゲストから寄せられた小さな不満を、清掃の改善に反映することもありますし、清掃スタッフが見つけた小さな傷や水漏れの兆候を、建物管理の予防措置につなげることもあります。沖縄では、湿気、塩害、台風といった環境への対応も必要ですので、宿泊中の満足度と建物の資産価値を別々に考えることは難しいと感じています。
今回の物件であれば、その3つを一体で見ることで、収益と資産価値の両方を高められる自信がありましたし、何より、これだけ準備を重ねているオーナー様の物件だからこそ、良い形で開業を迎えていただきたいと心から思いました。
【資料よりも参考になった10分間】
建築中の物件で打ち合わせをした後、私から提案して、近くで実際に運営をお手伝いしている一棟貸し宿泊施設をご案内しました。時間にすると10分から15分程度だったと思います。
その施設では、壁に付いた傷、ベッドを動かした跡、洗えるクッションカバー、交換しやすい食器、収納しているリネン、ゲスト用のアメニティなど、実際に運営しているからこそ見える部分をご説明しました。高価なものをそろえることよりも、色や質感を合わせながら、壊れたり汚れたりしたときにすぐ補充できるものを選ぶこと、便利そうな設備でも、故障や使い方の問い合わせによってゲストの満足度を下げる可能性がある場合は、あえて使用を止めることもあるとお伝えしました。
後からオーナー様に伺うと、事前にお渡しした資料や数字も参考になったものの、この短時間の現地見学が大いに役立ったそうです。
私は数字や理論を用意することが重要だと思い、かなりの時間をかけて準備していました。一方でオーナー様にとっては、実際に運営されている部屋を見て、開業後に何が起きるのかを具体的に想像できたことの方が、より大きな判断材料になったのかもしれません。
同じ打ち合わせをしていても、私が重要だと思っていたものと、オーナー様が本当に知りたかったことは、少し違っていたように思います。
【まとめ】
今回のオーナー様が、まだ宿泊事業に成功したと書くことはできません。これから許可、消防、家具や備品の選定、撮影、掲載準備、清掃体制、ゲスト対応など、一つひとつ進めなければならない課題があります。
それでも、私はこのオーナー様であれば、課題が出たときにも自分の問題として受け止め、一つずつ乗り越えていける方だと感じました。建物や設備にこだわりがあるだけではなく、分からないことを確認し、データを判断に取り入れ、必要な部分には自ら関与していました。
宿泊事業では、資金力が大きいほど良い建物や設備を用意できることは確かです。ただ、資金力だけで運営が決まるわけではありません。プール、サウナ、ジャグジーがあるから選ばれるとも限りませんし、立派な家具を入れれば高い評価が得られるわけでもありません。
私が開業前の準備で8割が決まると考えているのは、物をそろえる準備だけを指しているのではありません。どのようなゲストに来てほしいのか、何名での利用が中心になるのか、設備をどのように管理するのか、故障したときにどう対応するのか、建物を将来どのような資産として残したいのかを、開業前から考えておくことです。
今回、私は選ばれるために準備をしていましたが、オーナー様もまた、宿泊事業を始めるための準備をしていました。お互いに準備して現地で会ったからこそ、メールだけでは見えなかった考え方が分かり、運営会社を選ぶという関係から、同じ事業を一緒に進める関係へ変わり始めたのかもしれません。
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