Mybestpro Members

竹下勇夫プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

低額譲受②

竹下勇夫

竹下勇夫

テーマ:低額譲受・ケース①(1)

■売買として行われた取引に、なぜ贈与税が課せられるのか。

 相続税法では、1つの税法の中に相続税と贈与税の2つの税目が定められています。
 相続税は、人の死亡によって財産が移転する機会に、その財産に対して課される税です。また、贈与税は、贈与によって財産が移転する機会に、その財産に対して課される税です(注1)。
 わかりやすくいえば、亡くなった人からもらった財産には相続税がかかり、生きている人からもらった財産には贈与税がかかります。

 贈与税の課税対象となる財産は、贈与により取得した財産ですが、法律的には贈与によって取得した財産ではないけれども、実質的には贈与により取得したものと認められる一定の財産等について、課税の公平の見地から、贈与により取得したものとみなして贈与税を課することとしています。これを「みなし贈与財産」といいます(注2)。

 みなし贈与財産には、下記のようなものがあります。

 (1) 生命保険金等(相続税法5条)
 (2) 定期金(相続税法6条)
 (3) 低額譲受(相続税法7条)
 (4) 債務免除等(相続税法8条)
 (5) 信託受益権(相続税法9条の2から9条の5)
 (6) その他の経済的利益(相続税法9条)


 本件の、祖母との土地の売買に贈与税を課す処分が下されたのは、上記の(3)低額譲受に該当すると課税庁に判断されたためです。
 低額譲受を定めた相続税法7条は、下記のように規定されています。

「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、その財産の譲渡があった時において、その財産の譲渡を受けた者が、その対価とその財産の時価との差額に相当する金額を、その財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす。」

 例えば、親から子へ時価1億円の土地を贈与すると、5000万円近くの贈与税がかかってしまいます。これを回避するために、親は子へ、あえて100万円程度のわずかな対価で土地を売却します。すると、この取引は形の上では贈与ではなく売買であり、一見すると贈与税がかからないように見えます。しかし、このようないきすぎた贈与税の租税回避を防止するために、相続税法では7条において低額譲受を定め、その対価と時価との差額については、これを贈与とみなして贈与税を課するとしています。この場合には、1億円-100万円=9900万円を贈与により取得したものとみなされます。

 これを本件にあてはめると、売買当事者であるXさんとAさんにとっては妥当であり、周辺相場等を考慮した本件土地の時価は5200万円で、これを対価の額として取引しました。しかし、処分を下した課税庁にとって本件土地の時価は約6500万円だったので、その対価の額5200万円は「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当すると判断しました。さらに、その時価と対価の差額である1300万円は、Xさんが祖母Aさんから贈与により取得したものである、とみなして、贈与税を課す処分をしたということになります。
 では、本当にこの土地の時価は6500万円なのでしょうか? また、6500万円に対して5200万円は「著しく低い価額の対価」なのでしょうか?(続く)

注1:金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、2019)671頁。
注2:金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、2019)706頁。

※ 本件は国税不服審判所平成15年6月19日裁決をモデルにしていますが、一部の事実は異なります。
※ なお、本件は納税者側の主張が認められ、課税の決定処分等は取り消されています(確定)。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

竹下勇夫
専門家

竹下勇夫(弁護士)

弁護士法人ACLOGOS

検察官として10年、弁護士として30年超のキャリアを有し、高い専門性が求められる企業法務を得意とする。沖縄弁護士会会長等の公職を歴任する傍ら、琉球大学大学院法務研究科(現在は学部)講師の顔を持つ。

竹下勇夫プロは琉球放送が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

会社法・労働法・経済法に精通した企業法務のプロ

竹下勇夫プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼