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竹下勇夫

会社法・労働法・経済法に精通した企業法務のプロ

竹下勇夫(たけしたいさお) / 弁護士

弁護士法人ACLOGOS

コラム

低額譲受③

2021年7月28日 公開 / 2021年8月4日更新

テーマ:低額譲受・ケース①(1)

コラムカテゴリ:法律関連

■ 土地の時価は6500万円? それとも5200万円? そもそも時価ってなに?

 相続税法22条は、原則として、相続や贈与により取得した財産の価額は、「その財産の取得の時における時価による」と定めています。
 しかし、ここでは「時価による」という手段が定められているだけで、「時価」そのものの意義、つまり「時価とは何か?」ということについては定めがありません。また、「どのように計算するのか?」といった具体的なことについても定めがありません。
 その意義の内容は、法解釈にゆだねられています。そして、その解釈が重要な役割をもっています(注1)。

 金子宏教授は、この相続税法22条の「時価」の意義について、「客観的な交換価値のことであり、不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味する」と説明しています(注2)。

 「客観的な交換価値」とは、わかりやすくいえば、「市場価格」とか「実勢価格」とかいうような意味でしょうか。

 また、品川芳宣教授も、金子教授と同じく「時価」の意義を「一般的に、客観的交換価値(不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額)と解されている。」としています(注3)。

■ 時価はわかりやすいけど、把握するのは大変……

 住民税や固定資産税は、行政側がその税額を計算して納税者に通知してくれますが、相続税や贈与税は、納税者自身が税額を計算して、税務署に申告・納付する必要があります。つまり、土地を相続や贈与で取得した場合、その時価を納税者自身が把握して、納めるべき税金の額を計算する必要があります。
 時価は、納税者にとっては主観的にわかりやすく、納得しやすいものですが、その反面、時価を金額という客観的な数値で表し、把握することは容易ではありません。そのため、国は納税者の申告納税の際に土地を含む各種財産の時価を計算しやすいよう、「財産評価基本通達」を制定し、一般に公開しています。
 財産評価基本通達では、その1項(2)において、時価の意義を下記のように定めています。

「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」

 つまり、財産の価額は「時価」によるとしながらも、実際にはその価額は、「この通達の定めによって評価した価額による」こととしたのです。(続く)

注1:武田昌輔監修『DHCコンメンタール相続税法1-沿革・§§1~10』(第一法規、加除式)1813頁)。
注2:金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、2019)714頁。
注3:品川芳宣「判批(東京地判平成19年8月23日、判タ1264号184頁)」(T&AMaster No243、2008)30頁。

※ 本件は国税不服審判所平成15年6月19日裁決をモデルにしていますが、一部の事実は異なります。
※ なお、本件は納税者側の主張が認められ、課税の決定処分等は取り消されています(確定)。

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