同一労働同一賃金3
条文の順序は逆ですが、短時間・有期雇用労働法第14条第2項の説明からまいりましょう。
事業主は、短時間・有期雇用労働者から、例えば正社員と比較して自分の給料は相違があるのかどうかということを尋ねられた場合、相違があるとすればどのような相違なのか、その相違の内容はどのようなものか、その相違はどのような理由から生じたものであるのか、ということを説明しなければなりません。しかも同法第8条によれば「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」とありますから、正社員の賃金総額に比して70%くらいの差がありますよ、というのはだめで、基本給についてはこのような相違、賞与についてはこの様な相違、通勤手当についてはこのような相違、住宅手当についてはこのような相違がありますよ、というように賃金を構成する個別の項目ごとに相違を説明する必要があります。また不合理な待遇差というときの「待遇」には賃金のみならず。福利厚生や職業能力の開発・向上等も含みますから、福利厚生施設の使用に関して相違があればそれについての説明が必要になりますし、教育訓練についての相違があればそれについての説明も必要になることになります。
そのうえで、同法第8条は、「当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」と記載していますから、事業主は待遇に相違がある場合において、当該労働者に対して、「あなたと正社員の間には職務の内容についてこのような相違がありますよ。」「責任の程度についてはこのような相違がありますよ。」「あなたの職務は今行っている職務のみに限定されていますが、正社員はいろいろな職務につかなければならないし、場合によっては転勤もありますよ。」といったように、職務の内容や職務の内容及び配置の変更の範囲が異なっていることを具体的に説明し、そのことが待遇差に結びついていることを説明する必要があります。しかも、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らし適切と認められるものを考慮して」とありますから、例えば正社員には住宅手当があるけれども短時間・有期雇用労働者には住宅手当を支給していないような場合には、「正社員には住居の移転を伴う転勤があり、そのため居住に要する費用が高額になりがちであるのに反し、短時間・有期雇用労働者にはそのような転勤が予定されていないので住居に要する費用は正社員よりは低額ですむと考えられるので、短時間・有期雇用労働者には住宅手当を支給していない。」というように、住宅手当の性質、支給目的等からその待遇差を説明する必要があります。
以上のように、短時間・有期雇用労働者から待遇差について説明を求められた際には、事業主は同法第8条の立法の趣旨に照らして、具体的にその内容、理由を説明する必要があります。そして国会の審議の過程から明らかになっているように、事業主がこの相違の理由を十分に説明しなかったという事実は、待遇を相違の不合理性を基礎づける事情として訴訟上考慮されるものと位置づけられていることに注意を要します。その意味で、事業主は、短時間・有期雇用労働者から同法第14条第2項の説明を求められることがあることを前提に、待遇差がある場合の説明方法を事前に十分に検討しておかねばなりません。また、この検討の結果、十分な説明が困難との結論に至った場合には、待遇差の合理性に問題があるということですから、当該待遇差について改めて検討しなおすことが必要となります。