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コラム

誰も言わなかった、ZEH(ゼロエネルギーハウス)に向かう危険性

2016年5月29日

テーマ:建築について

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: ソーラーシステム太陽光発電 おすすめゼロエネルギー 住宅

ZEHビルダー登録をしました。
私自身は多少のためらいを感じながら、ある意味やむを得ず、申請を行いました。
今年度から、「ゼロエネ補助金の申請をしたいなら、まずはZEHビルダー登録をしなきゃ、だめだからな」
ということになってしまったのです。

住宅建築業界紙はもとより、さまざまなメディアで、「これからゼロエネの時代だ」とされ、これについてこれないメーカーや工務店は淘汰されるだろう、などとささやかれています。

本当にそうなってしまうのでしょうか?

確かにエネルギーを個々の家で自給自足しましょう、という方向性、理想論に異を唱える人はいないでしょう。
この時点で情報アンテナ感度が弱い工務店は、ゼロエネ志向の顧客からは認知されなくなり、選択肢から外れてしまうことになります。そうまでして、国はゼロエネ住宅をもっともっと推進し、自然エネルギーの普及を進めたいようです。

ZEHは「ゼッチ」と呼ばれ、”ゼロ・エネルギー・ハウス”の頭文字です。
各家庭において、生活するうえで必要なエネルギー=暖房・冷房・給湯・換気・照明などを着工前に計算し、
それら必要エネルギーを上回るだけ、自然エネルギーをを使ってエネルギーを生み出し、エネルギー収支がゼロ以下になる住宅をゼロエネ住宅と呼びます。

ゼロエネのための申請は、通常私のような建築士が作成することになります。
作業の手順は以下の通り。

どうやって「ゼロエネ住宅」に仕立てるのか?

【建築士の手順①】
計画している建物の断熱性能を計算します。通常は平面図や立面図を基に、専用の計算ソフトにて断熱部位の面積計算と窓や玄関ドアの大きさや断熱性能を細かく入力し、定義された値(q値など)を求めます。

【建築士の手順②】
はじき出された値を、指定されたプログラムソフトに入力します。この時、床面積について用途別に入力する項目があります。
一次消費エネプログラム
「主たる居室=リビング、ダイニング、キッチンが該当」
「その他居室=和室や寝室、子供部屋が該当」
「非居室=その他の部屋=廊下やトイレ、浴室、玄関など」

計画された間取り(平面図)を眺めながら、各部屋がどれに該当するか振り分けるのですが、ここで大きな問題があります。

こんにちの高断熱住宅は、廊下、という概念が払しょくされ、トイレや洗面脱衣室以外にはドアや引き戸がないなんてことがよくあります。全館暖房で、各部屋を仕切る必要がないため、玄関ホールからリビングに至るまでに建具がない、ということもしばしば。さらにリビングは階段とつながっており、2階の多目的ホールとつながっている、そんな間取りを可能にしています。

リビングと玄関ホールにドア(引き戸)が無ければ玄関ホールも「主たる居室」とみなす。
リビング階段で、2階のホールに至るまでにドア(引き戸)がなければ、階段さらに2階ホールも「主たる居室」とみなす・・・。
さらに、寝室につながるウォークインクローゼットの入り口にドア(引き戸・折り戸)がなければ、クローゼットは「その他居室」とみなす・・・・。絶句

なぜ開いた口がふさがらないかと言いますと、プログラムの計算上、主たる居室・その他居室の範囲が大きくなればなるほど、結果として消費エネルギーを多く使用する家庭とプログラム上勝手にみなされ、太陽光発電パネルの容量を大きくしなければならないなどの結末に至るからです。

あまりに理不尽なのですが、ルールはルール。
仕方なく玄関からリビングに入る通路にドアを設けるよう設計変更したり、ウォークインクローゼットの入り口に折り戸を付けたり・・・。(泣)

【建築士の手順③】
暖房・冷房方式を入力します。

暖房はエアコン、FFファンヒーター、パネルラジエーター、蓄熱暖房機などから選定し、その熱源が重要であり、さらに配管がある場合は、その配管が断熱されているかが問われます。
このプログラムをあれこれ触っている入力者はすでに分かっているハズですが、なぜかルームエアコンがとても過大評価されているように感じます。
ルームエアコンの熱源は当然電気ですが、ヒートポンプと呼ぶ空気圧縮機を伴い、熱効率が非常に高いことは事実ではあるけれど、ある物件の入力作業の際、ヒートポンプ式の温水パネルヒーターとルームエアコンを比較すると、なんとルームエアコンの方が年間12,500MJ(メガジュール)も少ない。
「それでは、暖房はルームエアコンでいきましょう」、となるのは必然です。

建築主や営業マンは、は建築コストを当然気にしていますから、
「ルームエアコンで暖房が賄えるならば、それでよい」となるのは仕方ない。昨今、ここ寒冷地信州でも、「ルームエアコンによる全館暖房」、とする会社が増えてきたといいます。

しかし、温風式のエアコン暖房と、輻射式の暖房方式では体感温度が圧倒的に異なると私は感じています。
ここでも私がいつもおすすめしているおパネルラジエーター(パネルヒーター)による暖房方式が計算上は不利になります。

【建築士の手順④】
換気方式を入力します。

ダクト方式でDCモーター、さらにφ75mm以上の太いダクトを使用した第三種全館換気方式で計算を行いました。
ここ寒冷地では、換気による熱ロス(エネルギーロス)が多いため、予算が許されれば、熱交換式の第一種換気にしたいところ。
しかしここでもまた?マークがでます。
地域にもよるでしょうが、ここ長野市では、第一種熱交換方式(一軒で約50~60万くらい工事費がかかる)よりも、ダクト方式のDCモーターの第三種換気方式(一軒で約20~30万くらい工事費がかかる)の方が、わずかではありますがエネルギー消費が少ない、という結果を得ました。

ゼロエネを目指すならば、当然換気は第一種だろうと考えていた私にとっては驚きの結果でした。
ちなみに北海道や東北、長野県でも特に寒い地域、だという条件にすると、第一種のほうが計算上も有利になります。

【建築士の手順⑤】
給湯方式を入力します。
太陽熱利用設備(サンジュニアやソーラーシステムなど)もこの項目で入力します。

給湯は大きく分けて、深夜電力を利用したエコキュートか、ガスや灯油を利用したボイラー方式か。
ここでも腑に落ちないことがあります。
エコキュートと灯油ボイラー(高効率タイプ=エコフィール)との差は年間1,655MJ。エコキュートの方が有利です。
さらに、エコキュートとガスボイラー(高効率タイプ=エコジョーズ)との差は年間1,926MJ、やはりエコキュートの方が優れていることになります。
ちなみにエコキュートのCOPは3.0で計算しています。このあたりも、ヒートポンプの設置位置や外気温によってずいぶん変動があるはずですが、メーカー試験値がもとになっているので、本来は現地状況に応じて、安全側のCOP=2.5くらいにしたいところではあります。

深夜電力は原発が再稼働してゆかない社会を目指す以上、今後メニューとして廃止される方向です。かつては昼間の電力に比べて1/3程度と、非常に安いエネルギーではありましたが、日本のエネルギー事情を俯瞰してみた場合、「それでもまだ安いから」といって深夜電力を使用する機器を、今後も新築住宅に持ち込むことは控えなければならないのではないでしょうか?

給湯方式には他にも、節水型の水栓金具を使用するか?、お風呂は断熱された浴槽とするか?、などを問われます。ある意味、節水型・省エネ型の住宅設備機を買うように誘導されている感じです。

【建築士の手順⑥】
照明方式を入力します。

ここでは、「白熱灯を使用しないこと」、みたいな誘導を受け、さらには多灯分散式(=ワット数の多きい1灯にせずに、ワット数の小さいものを複数つけて、スイッチも分散、状況に応じて点灯分けできるようにする)を推奨、調光や人感センサーの使用も、数値が有利に働くようになっています。


ここまで入力すると、計画されたこの住宅が、年間にどのくらいのエネルギーを使用するのかが自動計算されます。
そしてついに、「果たして何KWの太陽光発電パネルを乗せればいいのか」、ということの検討に移ります。

断熱性能が次世代省エネ基準相当の場合、各設備機器をかなりいいもので選定していったとしても、7~8KWものパネルが必要となるのではないでしょうか。
パネル価格をKWあたり40万とすると、太陽光パネルの投資額は280~320万。
過当競争も実際には存在しているようですから、250~300万ほどが実勢価格かと思われます。

さらにこれだけのパネルを屋根上に乗せようとすると、片流れ屋根になることが多くなるはず。
北側斜線制限がある第一種低層住宅専用地域などでは、敷地にゆとりがなければ、南向き片流れ屋根は設計上無理が生じることが頻発するはずです。

切り妻屋根 3.6K
片流れ屋根 5K


切り妻屋根の様子

では断熱性能をもっとあげようではないか、暖・冷房はエアコンで、給湯はエコキュートで、というふうに話は進んでゆきます。
家の形の自由度が制限される、工事費は設備機器を中心にどんどん膨らんでゆきます。
サッシは樹脂サッシのペアガラスLOW-Eの採用は確実。
断熱性能もUa値=0.4程度までは高めたい。

このあたりまでやると工事費は2万/坪くらいアップするものの、太陽光パネルは5kw前後まで減らすことができます。
35坪の住宅だと、断熱コストで70万+太陽光パネル175万=245万
対して補助金額は125万円。書類作成費用もけっこうかかるでしょうから、実質100万円程度。
つまり145万くらいの実質初期投資となります。

低金利が続いている現在、これくらいの投資であればけっこう早い期間でペイするでしょう。
ZEHを建てる方は、このあたりを落としどころにしていただくのが、コスパに優れた仕様だと思います。

「太陽光パネルを乗せたいから、銀行からの借り入れ(住宅ローン)を割り増しして借りる」
売電シミュレーションを検討するなかで忘れがちなのが、借入金利。
300万も借りたら、金利もそれなりにありますからご注意ください、忘れがちです。

本当は、日本には切り妻屋根が似合うのではないか

東北大震災以降、自然エネルギーの普及は太陽光パネルを軸に各家庭に、確かに広まりました。
電力会社に買い取ってもらえる金額が、べらぼう、だったことも影響しています。つまりお金儲けのために太陽光発電パネルを乗せた家庭が多かったと認識しています。片流れ屋根の家もやたらと目につきます。

建物は個人所有の財産ではありますが、一方景観を形成している物体でもあります。
片流れ屋根の家が立ち並ぶような風景よりは、軒の深い、切り妻屋根の家が日本には、さらにここ森林県・信州ではよく似合うのではないのかと思います。

また、自然エネルギーというと、イコール太陽光発電、と短絡的に考えるのではなく、マキストーブやペレットストーブなどを用いてもZEHになれるのだ、という信州型計算式を編み出してゆけないものでしょうか。

予算の許される範囲、あるいはコストパフォーマンスが最大になる範囲で断熱性能を高めるだけ高め、暖房はマキストーブ(自然換気にも一役買う)、給湯は薪&補足で灯油式、冷房はなし、照明はLED中心で、生活上支障のない程度で暗くてもよく、買った灯油と電力代を賄う分だけ、休日に薪を割って販売して収益を得る。

マキとなる原木を無料、または格安で仕入れる必要がありますが、これで生活エネルギーにまつわる収支がゼロ以下になるのであれば、その家もZEH(ゼッチ)と呼んでよいのではないだろうか。



家電が経済を支えている日本らしいのZEHに限らず、そういうゼロエネもあってよいといいとおもうのだろうが、読者の皆さんからは笑われるでしょうね。

Nearly ZEH(ニアリー・ゼッチ)。
これには賛同できます。これがあるからビルダー登録した、そんな気もしています。

この記事を書いたプロ

塩原真貴

木造住宅を耐震・断熱構造に生まれ変わらせるプロ

塩原真貴(株式会社Reborn)

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