スイスのお話⑴(ジュネーブという場所とジュネーブ大学)
スイスの法曹文化などと言うと大げさで、スイスの法学部で法律を修め(学部卒)た後、ジュネーブにて司法修習を経験したものの、スイスの法曹文化のほんのさわりの部分にしか触れることができなかったのでたいそうなことは言えないが、ちょっとした小咄でも日本と比べることでスイスの法曹について、法律事務所について色々と見えてくることがあるだろうと思い、記憶をたどって以下を記す。
私が法律を学び、司法修習を経験したのはスイス連邦フランス語圏の中では最大の都市と言って良いジュネーブだった。ちなみに、イラスト右上のエンブレムはジュネーブ州の公式の旗であり、ジュネーブを散策していると街角のそこかしこで見かけることがあるはずである。
法律事務所は、フランスでは一般的には「cabinet(キャビネ)」というが、ジュネーブでは同じフランス語と言っても言葉遣いにフランスとは微妙な違いがあるようで、ジュネーブでは皆法律事務所のことを「Etude(エチュード)」と呼んでいた。
こうした違いは辞書を見たり、ましてやAIに尋ねたところで出てくる訳もない細かなニュアンスの違いなのであって、こうした事例は他の分野でもいくらでもあるだろう。
そのジュネーブの法律事務所は主にどんな場所にあるのか。ジュネーブも中心部の旧市街から広い範囲にかけて古い建物がきれいに保存されいて、そうした建物は簡単に壊されることはなく、現代においてもフル活用されている。
新しいビルに入る法律事務所が皆無とは言わないが、多くの事務所は古い建物の一角に事務所を構えていて、やはり裁判所がある旧市街中心部を周辺に多くの事務所が集まっている印象だ。裁判所自体が旧市街中心部の中世の建物に間借りして存在していて、観光でそこを訪れた人は、知らないとそこに裁判所があるとは普通気付くことはできないだろう。
私の修習先も2階建てくらいの瀟洒な古い洋館に事務所があったし、司法修習開始前夏期インターンを約1か月ほど経験した全く別の法律事務所なども、外からはそこに法律事務所など入っているとは思えない古い重厚な建物に所在していた。
そして事務所にもよるだろうが、多くの場合、修習生などを除いては弁護士は基本的に個室が与えられて、各自マイペースに仕事に打ち込める環境があったように思われる。
事務所内の序列で面白いのは、日本はおそらくアメリカなどにならって、経営参画する弁護士をパートナー、通常の勤務弁護士をアソシエートと呼んでいるが、ジュネーブにおける公用語であるフランス語ではそれが逆になるということである。
つまり、ジュネーブの法律事務所では、経営参画する弁護士が英語で言えばアソシエートと呼ばれる「associé(アソシエ)」であり、勤務弁護士が英語ではパートナーと呼ばれる「partenaire(パルトネール)」となるのである。
そのような訳で、ジュネーブでは代表弁護士と、その他の経営参画弁護士を法律事務所名に入れる時は、「○○&パートナーズ」ではなく、「○○&アソシエ」となる。実際、こうした形式の事務所名を持つ法律事務所が複数存在する。
また、ここでは深掘りはしないが、日本では着手金、報酬金方式の報酬体系がまだ主流だと思うが、スイスではタイムチャージ制が基本である。友人の弁護士の報酬体系を例として挙げると、最初に1万スイスフランの支払が求められる。これで当初22時間の執務が約束されるとのことだった。現在円安スイスフラン高の傾向があり、日本人の感覚からすると相当な金額を当初の着手金として払わされるイメージで、こうなると客も選ばれる感じにならざるを得ない。
ほんのささいなこととは言え、スイスでの勉強や修習で、こうした日本や他の国の法曹文化との様々な違いを発見することはとても興味深く、楽しい日々であった。


