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「相続対策」としての生前贈与

三上隆

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テーマ:生前贈与

 今回は、生前贈与を「相続対策」とした場合について、考えてみたいと思います。

 多くの方は、相続でご家族が揉める心配について、「うちの家族は大丈夫だと思う」という風に、思っておられると思います。
 それはただの願望ではなく、ご家族の性格や考え方、それまでの生活状況などもふまえての事だと思います。

 では、残念ながら相続で揉めてしまったご家族は、始めから「うちは心配だ」と思われていたのでしょうか。
 少なくとも、私がお伺いした相続でお悩みの方のご相談は、「家族の関係性は特に問題なかったけれど、いざ相続の話になってからこじれてしまった」という方が多い様に思われます。

相続で家族が揉める原因と生前贈与

 特に仲が悪かった訳でもないご家族が、相続をきっかけに揉めてしまうのは何故なのでしょうか。
 
 相続で家族が揉めてしまう原因の一つに、”特定の方による、亡くなった方の預貯金の引き出し”があります。
 それが医療費の支払いなど、誰もが納得出来るものなら問題ないのですが、「日用品を買う為に、引き出しを頼まれていた」、「もらったもの」など、その真意がはっきりしない場合、それをきっかけにご家族の関係性が悪化する事があります。

 また、お手持ちの不動産がご自宅のみの場合、親と同居している子供がいれば、その子供は自宅に両親の死後も住み続けたいと考えるのは自然です。
 そんな時、他の子どもが平等な相続を求めた場合、他に相続出来るものがなければ、家を相続する子供が、他の子供に代償金と呼ばれる金銭を支払う必要があり、それが争いの原因になる場合があります。
 
 他には、両親の面倒を看ておられた子供と、そうでない子供がいる場合で、子供同士の相続は平等というお話になりますと、それまで大変な思いをして面倒を看られた方からしますと、「本当は平等ではない」というお気持ちから、争いの原因になったというお話は、今日よく聞かれるところです。

 ご家族のこれまでの関係性と、相続で揉めてしまった原因とは、直接の関係がない場合もありますので、いざという時に揉めない様に検討されるのが、相続対策としての生前贈与です。

 ただ、生前贈与だけの場合ですと、相続財産の先渡しとしての意味合いもありますので、遺言と組み合わせたり、家族信託なども検討したりする事で、より財産の引き継ぎ方は明確になります。
 それらよって、金銭の引き出しトラブルを防止したり、同居している子供や自身の面倒を看てくれた子供へ相応の配慮をしたりする事が、ご自身のお元気なうちに実現する事が出来ます。

生前贈与は「遺留分」を考慮する必要があります

 一般的に、「遺留分」とは、”遺言があっても、最低限相続する事が出来る権利”という理解がされていると思います。
 この為、「遺言をつくる場合は、遺留分も考慮する」という事は、よく知られているところだと思われます。

 また、遺留分は相続の時に存在する財産だけで考えるわけではなく、ご家族にされた過去の生前贈与(援助)についても、組み入れる事が出来る規定になっております。

 この点につきましては、改正された民法第1044条で、次の様に定められております。
・第1項
「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。」
・第3項
「相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは、「価額」(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る=特別受益)とする。」

 では、“当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って”行われた贈与”とは、どの様な贈与をさすのでしょうか。

 この点について、かつての大審院では「遺留分権利者に損害を加えるという認識があれば、加害の意思までは必要なく、誰が遺留分権利者であるかを知る必要もない」、「法律上の知識の有無は問わず、客観的に損害を加えるべき事実関係を知れば足りる」としております。

 また、H10年最高裁判決では「右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、~減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの事情のない限り、~遺留分減殺の対象となる。」という判断もしております。

 遺留分を侵害してるかどうかのポイントとなる、“遺留分権利者に対する損害を加える”という部分は、財産全体に占める贈与の割合や贈与時の年齢など、その後の財産形成の可能性を考慮して、個別の判断になるかと思われますが、これらの判決は、相続人に対する価額の大きい贈与は、かなり以前のものであっても、遺留分算定の財産額に加えられる可能性がある、ということを判示しております。

 この為、遺留分対策を考えない安易な生前贈与は相続対策にはならず、かえって遺留分をめぐって相続の争いを招くことにもなりますので、慎重な判断が必要です。

夫婦間における不動産の生前贈与

 ご自身に万一があった場合に、その後の配偶者の生活に不安が生じない様に、相続で取得する金銭を少しでも多くする目的で、ご自宅を生前贈与して配偶者名義にしておくという事も、相続対策として行われております。

 こちらの贈与につきましては、先の民法改正によりまして、婚姻期間が20年以上の夫婦が居住用不動産を相手側に贈与した場合、将来の相続時において、その贈与分を相続財産に含めないで考える事が出来るという、「持ち戻し免除の意思表示の推定」も行われており、税制面でも、贈与税が基礎控除110万円に加えて、2,000万円まで控除されるという施策も行われております。
 
 こちらは、以前のコラムでもご紹介しておりますので、よろしければご参照下さい。
  ⇒婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
 
 また、配偶者保護に関する施策では、「配偶者居住権」に関する制度が創設され、令和2年4月1日より施行される事になっております。
 こちらについては、また改めてご紹介させていただこうと思いますが、概要は相続で不動産の所有権を取得しない配偶者でも、そのまま自宅に居住する権利だけを引き継ぐことが出来る、というものです。

 相続対策における生前贈与につきましては、相続税対策とは違い、それを行えばある程度の効果が見込める、というものではありません。
 ご家族の人数や構成、それまでやこれからの関わり方などによっても変わってくるかと思われますので、それについてご家族でよくご相談するという事も、相続対策の立派な第1歩になるのではないでしょうか。
 

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三上隆
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三上隆(行政書士)

相続まちの相談室/行政書士 三上隆事務所

「人との関わり」や「お話を伺うこと」を大切にしておりますので、終活のお悩みや身寄りのない方の今後のご不安、相続の話し合いの部分に至るまで、‟人”と関わる部分を最後までお手伝い致します。 

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