民法(相続法)の改正 ~婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置について~
「民法が改正されて、相続や遺言が変わった」という事について、一度は聞かれたことがあるのではないかと思われますが、実際に何がどのように変わった(変わる)のかという事につきまして、少しずつお伝えしておこうと思います。
まず、改正された法律がいつから施行(適用される日)されるか、という事についてです。
今回の改正におきましては、様々な改正が行われた訳ですが、そのすべてが同じ日に施行されるという訳では無く、その施行日も分かれております。
○主な改正項目とその施行日
・2019年1月13日施行 自筆証書遺言の方式緩和
・2019年7月1日施行 遺産分割前の預貯金仮払制度
遺留分の制度の見直し
婚姻期間20年以上の夫婦による持ち戻し免除の推定 など、
・2020年4月1日施行 配偶者居住権の新設
・2020年7月10日施行 自筆証書遺言の法務局保管制度の創設
今回は、先日施行されました「自筆証書遺言の方式緩和」について、お伝えさせていただきます。
自筆証書遺言の方式緩和について
ご存知の通り、遺言書の種類でよく用いられているのは、公正証書遺言と自筆証書遺言です。
公正証書遺言は、本人性の確認や法律上有効な内容の遺言書をつくる、という点では優れておりますが、費用が掛かるという側面もありますので、それ以外で遺言書をつくる場合には、自筆証書遺言でつくるという事が一般的になります。
ただ、自筆証書遺言は全文を自書する必要がありましたので、遺言者さまがご高齢の方になりますと、長い間自書をするという事が困難な場合もあり、遺言書をつくるということ自体をあきらめている、という方もおられます。
この改正は、そのような方が遺言書をつくるという場合において、そのハードルが少しでも下がる事にはなっておりますが、今回緩和されたのは、財産目録(財産の種類などの詳細)の部分のみとなります。
「遺言書のすべてが印字したもので作成できる」という訳ではありませんので、その点はご注意が必要です。
遺言書は、遺言者さまの最後の意思表示のひとつとなりますので、偽造や加筆などが容易になされない様、自筆証書遺言におきましては、人それぞれ異なる特徴をもつ、”文字を自書する”という事を求めております。
その為、誰にどのように財産を引き継いでもらうのか、遺言執行者や祭祀承継者は誰にするのか、という遺言の内容でも重要な部分は、変わらず自書が必要となっております。
財産目録の部分を自書する場合、自宅などの不動産の場合ですと、その後の相続登記の時に不備を指摘されない様、登記簿謄本の通りに記述し、預貯金の場合も金融機関名・支店・口座名までを記述する事が一般的です。
これらにつきましては、その種類(金融機関の数や田畑の筆数など)が多い方であれば、その労力が負担となる場合もあります。
改正された民法は、「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。」とされ、財産目録の部分については、印字されたものでも、第三者に作成してもらったものでも構わない、という事になっております。
続けて、「この場合において、遺言者は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない。」と規定し、自書ではない財産目録の部分には、遺言者さまによる署名と押印をする事で、偽造の防止を図っております。
具体的には、不動産の場合は登記簿謄本のコピーを添付し、預貯金なら通帳のコピーを添付する、という事が可能になりますし、目録を印字したものを添付する事も可能になります。
また、その目録自体も、ご自身ではなく他の方に作成をしていただくという事も可能です。
そして、それらの目録に遺言者さまが署名・押印をすれば、それが有効な財産目録となります。
目録に押印する印鑑に制約はありませんので、認印でも可能ですし、遺言書の本文と異なる印鑑でも問題ありません。
⇒自筆証書遺言の緩和の記述例①(法務省HPより)
自筆証書遺言の緩和の記述例②(法務省HPより)
ただし、自書ではない目録を作成する場合は、遺言書の本文とは違う紙に印字する必要があり、遺言書の本文に添付する事になります。
また、遺言書の本文と目録の添付方法についての規定はありませんので、製本して契印をしたり、ホッチキス止めをする事も必要とされておりません。
今回の改正により、財産の目録となる部分が多い方は、それを自書する労力が緩和されますし、そうでない方でも、記述に間違いがある、または不明確という理由で、遺言執行が困難になってしまう可能性を少なくする事が考えられます。