(同一労働同一賃金)10/13最高裁判決でパート・アルバイトにもボーナス支給義務化?【解説動画】
2023.7.20に中小企業が注目するべき同一労働同一賃金の最高裁判決が下されました。
令和4年(受)第1293号 地位確認等請求事件 令和5年7月20日 第一小法廷判決
判決文↓↓↓↓
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/208/092208_hanrei.pdf
なぜ、中小企業が注目するべきかと申しますと、中小企業の定年再雇用における諸問題が
テンコ盛りの事件だからです。
概要を列挙しますと
1.そもそも給与水準が低い(第一審:賃金センサスとの比較により)
2.定年前後で職務の内容は変わっていない
3.にも関わらず、基本給、賞与、手当(皆精勤手当、敢闘賞)は軒並みカット
4.加えて、中小企業なので転勤等はない(人材活用の方法もほぼ同じ)
定年再雇用後は仕事の内容はそのままに、賃金を大幅に下げている
(1~4)のような中小企業は多いと思います。
第一審、控訴審の判決文を読みますと、この事件はどのような結果が妥当なのか
裁判官は随分と悩んだのではないかと思います。
*******参考(旧:労働契約法20条)********
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、
期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結
している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、
当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度
(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、
不合理と認められるものであってはならない。
****************************
この事件当時は旧労働契約法20条(現在はパート有期雇用労働法8条、9条)でしたが
①職務の内容、②配置の変更の範囲、③その他の事情、の3要件のうち
③その他の事情に重きを置いた判断となっております。
特に「基本給」については定年前と比べ45%とかなり低い水準になっており
「労働者の生活保障の観点から看過し難い水準に達しているというべき」と判示
した上で、定年前の60%との差である15%部分を支払えとしました。
*注)原告はお二人いらっしゃいますので、上記の%は原告P1の数値です。
また、賞与についても、基本給が下がったことによる減額であると判示し
基本給と同様に60%水準での再計算して支払えとしました。
(手当(皆精勤手当、敢闘賞)の減額も支払えとされましたが割愛します。)
ここまでこの判決の概要をご覧頂き、どのような感想をお持ちになったでしょうか?
労働者側とすると、定年前後の仕事の内容が変わってないのだから、定年前給与との
差額の支払いを命じない裁判所に憤慨したことでしょう。
会社側からすると、厚生年金の受給開始年齢との関係で継続雇用の年齢を延ばされ
給与水準まで定年前の水準に縛られるのは納得いかなかったと思います。
実際、会社は控訴審の【主張補充】で、赤字経営が続き、年功序列の基本給は
定年前が一番高くなり、その水準と比較することは根拠がなく、労働者側には
雇用保険(高年齢雇用継続給付)や厚生年金(報酬比例部分)が支給されている。
そもそも、会社で上記のように決めている基本給を否定することは【私的自治の否定】
だと主張して、激しく抵抗しています。
名古屋自動車学校の主張は、赤字経営の部分を除いて、多くの中小企業は心情面を含め
賛同できるところだと思います。
そこで、第一審(名古屋地裁)は、賃金センサスの統計値を持ち出してまで
それらしい理屈を立て、「高年齢雇用継続給付の61%以下となる労働条件が
常に許容されるものではな」く、「基本給に年功的性格があることから将来の増額に
備えて金額が抑制されている若年正社員の基本給をも下回るばかりか・・・
労使自治を反映された結果でもない以上・・・労働者の生活保障という観点を
踏まえ、嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度で
労働契約法20条にいう不合理と認められるものにあたると解するのが相当である。」
と判じました。
*注)「 」は第一審判決文より引用
小職が初めて第一審の判決文を読んだときに、突然でてきた6割水準に違和感を
持ったものです。また、なんだかんだ言っても支給水準か・・・とも思いました。
下衆の勘繰りですが、「定年前の基本給を支払え」とまでは言えないが、
さりとて基本給45%水準は低いのではないか?ということに対して、会社側が
主張した高年齢雇用継続給付の61%水準を落としどころとして判断したのでは
なかろうかと思います。
考えようによっては、令和の大岡裁きと言っても良いかもしれませんが、
先日の最高裁は、この大岡裁きを全否定しました。
★ダメ出し1
「正職員の基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を
有するものであったとするにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を
検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら
検討していない」
★ダメ出し2
「嘱託職員一時金は、正職員の賞与と異なる基準によってではあるが、同時期に
支給されていたものであり、正職員の賞与に代替するものと位置づけされていたと
いうことができるところ、原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を
何ら検討していない」
注)「 」は最高裁判決文からの引用
それにしても、「何ら検討していない」とまで判決文で指摘された下級審の裁判官の
方々の心中やいかに・・・と思ってしまいました(余計なお世話ですが)
それでは、最高裁は何を言っているのかと言えば、
基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質や支給の目的を
十分に踏まえて検討せよ・・・という事のようです。
*最高裁の判決文で引用されているのは、下級審で引用されていた長澤運輸事件ではなく、
基本給等の性質や支給の目的をかなり細かく検討されたメトロコマース事件だったのも
印象的でした。
この名古屋自動車学校事件、中小企業の定年再雇用問題として注目されていましたが、
その内容は、第一審、控訴審の判決内容から、何割の水準が妥当なのか?その水準には
国の制度である高年齢雇用継続給付や厚生年金報酬比例部分を加えてもよいのか?
といった観点で注目が集まった面も否めません。
そこに最高裁が待ったをかけたのは、ある意味当然だったのかも知れません。
ただし、裁判には時間がかかります。原告の方々も高齢者であり、速やかに差戻審で
結論がでることを願っております。
【補足】
2021に公開した動画は第一審の解説動画ですので、今もそのまま公開しております。
ただし、最高裁の判決で破棄差戻された判決内容であることが分かるように、
サムネイル、タイトル、概要欄にはその旨が分かるようにしておりますので、
ご理解の程、よろしくお願いいたします。
過去動画 ↓↓↓↓