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穂盛正明

高知の地盤を知り尽くした地盤調査・補強工事のプロ

穂盛正明(ほもりまさあき) / 地盤品質判定士

有限会社グランドワークス

コラム

命を守る住宅と地盤 -広島災害からの教訓-

2014年8月22日 公開 / 2021年1月7日更新

テーマ:災害

コラムカテゴリ:住宅・建物

先日の広島市の集中豪雨による大規模かつ多発的な広島土砂災害
日を追うごとに被害の全貌が見えて来ました。
今日の朝刊では死者・行方不明者合わせて90人に達する可能性があるとなっています・・・
亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
また、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
1998年の高知豪雨を基点として、急速に日本が亜熱帯化していると
感じているのは私だけでしょうか?

本来であれば、今回のコラムでは建物の沈下修正について書くつもりでしたが、
広島以外の地域でも災害が広がっている事から今回は前倒しまして、
地盤から考える防災・減災方法について書いていきたいと思います。
今回のコラムはちょっと長くなるかもしれません。

さて、これは全くの偶然ですが、私が約2ヶ月半前にある工法を鳥取県まで見学に行く際、
まさにこの安佐南区緑井地区にたまたま立ち寄った事があります。
その時は、広島市街地からも近く、大きな国道、大型店舗等も多く
「瀬戸内海特有の気候もあって穏やかで良い所だな」と感じた印象があります。
また比較的なだらかな山裾(高知と比較して)に住宅地が拡がっており
「瀬戸内地域特有の地形だなぁ」と思ったのを思い出します。
又、これも全くの偶然なのですが、その鳥取まで見学しに行った工法も、
まさに今回の様な豪雨災害への防災・減災の為に、今後、四国内での必要性や
展開を考えて、今後の施工協力を取り付ける為の見学と打合せでした。
この補強工法については後ほどご説明します。

まず、高知の方にはあまり馴染みがない真砂土(まさど)について簡単にご説明します。
高知の方で瀬戸内側の県に行かれた際、舗装されてない駐車場が多いのを
不思議に思った事はありませんか?舗装されてなく、一見土のままの様に見えるが
雨の日でも車が出入りしても道路を汚すこともない。そのほとんどが真砂土です。
中四国地域では主に瀬戸内地域に多くみられ、比較的一般的な建材ですが、
太平洋側の高知、徳島では学校等のグラウンドの表土などで見る事ができます。

真砂土は風化度合にもよりますが、多くはサラサラしており、
ある一定の所までは水はけが良いが、それを超えると保水しだします。
また、その下の層の透水性が悪い場合、一気にその力学バランスを失って崩れて行きます。
讃岐富士の半分より下の部分や、香川県のなだらかな山裾の部分はそうして出来ています。
香川県などでは擁壁や石垣の裏込めにも使われますが、
この真砂土の流出により陥没や建物の不同沈下が起こることがあります。
これは雨水や排水などの流水に起因して起きる現象といえます。
今回の災害についても、真砂土が主原因では?と言われていますが、
いずれにせよ、あれほどの集中豪雨とあっては、傾斜地では土砂・土石流災害を
低地では河川の氾濫や浸水被害に注意する必要があります。

今回の被災地域は、もうご存知の通り土石流危険区域等が広く存在する地域でした。

土石流危険区域や急傾斜危険区域で有効な法律として「土砂災害防止法」があります。
これは高知豪雨の約1年後の1990年広島災害をきっかけに施行されました。
また、各県には建築基準法施行条例なるものがあり、県が指定する危険区域での
住宅の新設については原則として制限されているはずです。
しかし昔からある住宅や、なんらかの方法で開発許可を受けた場合、この限りではないのです。
各県の条例の中にガケ条例(第5条)なるものがあります。
これは最も身近な命を守る条例ともいえます。
私はあちこちで地盤についての講習会の講師をさせていただいておりますが、
豪雨が増えたここ数年は、必ずこのガケ条例の話をする事としています。
この条例は勾配が30度以上のガケ(構造や安全性が確認できない擁壁を含む)に
近接した住宅への条件を明確に提示しています。
高知県では高さ3m(他県の多くでは高さ2m)以上が対象となります。
がけ
この条件に当てはまる場合には、原則として住宅をガケから後退させる必要があります。
もしくは、その安全性の確認を建築士さんにお願いするか、その安全性を確認できない場合には
そのガケに影響を及ぼさない又はガケの影響を受けない構造にする必要があります。

①ガケの上に建築する際の事例 (深基礎でも対応可能)
ガケ上

②ガケ下に建築する際の事例
ガケ下

さて皆さん、この②のイラストを見て何か感じて頂けましたか?
そうです!!!声を大にして言いたいのは
今回の様な斜面地災害の多くは、せめて1F部分の山側のみでも
無開口の鉄筋コンクリート造にしていれば防げた災害なのです。
既存住宅であれば、軒下位までの高さの擁壁を造っても同様の効果があります。
また、そのような危険区域に近接している場合にも、検討してみるべきでしょう。
実際に高知でも、裏山(切土面)を心配した方が、自主的にブロック塀を
鉄筋コンクリートに作り変えて、建物への被害を免れた方もいらっしゃいます。
私も木造住宅が好きですが、快適さより、見た目より、まずは本質的な安全安心!
安心して長く住める事は、住宅の必須条件であり絶対条件だと思っています。
また、ギリギリの状態の建物(地盤)ではなく、少々の事があっても大丈夫な余裕のある
常に安全側にある建物(地盤)にしていくのが私たち地盤屋の仕事であると考えています。

最近は今回の様な豪雨で崩れる石垣も多くなってきました。
ここで、冒頭にお話しした工法のご紹介をしたいと思いましたが、
写真の貼付枠がいっぱいになってしまったので、次回に持ち越しとします。
次回は空石積みの石垣への有効な補強工法のご紹介とします。

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