教育関係者に伝えたい:不登校・HSCの子が習い事をやめたがる本当の理由― 続かない原因は性格でも根性でもない ―

整えると、自然に伝わる。失敗を恐れる子どもが、自分から動き出すには順番がある
現代の教育現場で起きている“静かなミスマッチ”
日本の教育現場では、日々多くの子どもたちが「努力」や「練習」によって成長することを期待されています。それ自体は素晴らしい信念ですが、その前提がすべての子にとって公平なスタートラインとは限りません。
たとえば――
落ち着いて座って話を聞くことが難しい子
失敗への恐れが強く、一歩踏み出せない子
感覚や音に敏感で、刺激の多い環境に疲弊する子
こうした特性を持つ子どもたちが、「訓練すればできる」といった一律の基準で評価されることにより、自信を失い、挑戦を避けるようになってしまう事例が少なくありません。
誤解されがちな「非認知能力」:才能の土台は“整った環境”で育
「やり抜く力」「自己肯定感」「対人調整力」などに代表される非認知能力は、将来の学業・職業・社会的成功に深く関係すると多くの研究で示されています(※参照:ヘックマン教授らの研究)。
しかしこの能力は、“訓練”や“知識注入”によって直接伸びるものではありません。
特に、繊細さや多動傾向など、生まれ持った特性を持つ子にとっては、
「安心できる環境」
「失敗しても責められない関係性」
「自分のペースが尊重される設計」
といった“整える”ための土台が確保されなければ、非認知能力を発揮するどころか、逆に“自分を守るための回避”を学んでしまうのです。
平等より“公正”な教育へ ― 同じ訓練ではなく「個を起点にしした設計」が必要
教育の現場では「同じように教える」ことが“平等”とされる場面が多くありますが、私たちはもう一歩先の、「公正(equity)」という視点が必要です。
誰もが同じ訓練を積めば伸びるという発想ではなく
その子の今の状態・特性・心の準備を出発点にした関わり
これが、挑戦できる子どもを育てる最初の一歩になります。
現場での実践:「整える」ことから始める音楽指導
私は30年以上にわたり、全国の音楽教室・教育者・保護者と共に、「整えることから始める教育」を実践してきました。
たとえば、
練習に取り組めない子には、“練習しなさい”ではなく、“どんな時なら少し触れたくなる?”と問いかける
楽譜が読めないことを恥じる子には、“読めなくても大丈夫”という安心感から関係を築く
その結果、ピアノをただ弾けるようになるだけでなく、自分で決めて動ける子に育つ事例が多数生まれています。
教育委員会・行政・指導者の皆様へ
もし今、「失敗が怖い子が増えている」「習い事を続けられない子が多い」「自己肯定感が低い」といった声が現場から上がっているのであれば、それは子どもたちの“やる気”が足りないのではなく、「整える順番」が逆になっているのかもしれません。
成果ではなく“安心”を最初に
指導法ではなく“まなざし”を起点に
知識より“関係性”が先にある
そんな教育の視点から、非認知能力を支える環境設計を、現場からご一緒できたらと願っています。
著者紹介(簡潔版)
三上緑(みかみ・みどり)
一般社団法人カラフルエデュ協会代表理事。
音楽教育と認知科学・コーチングを融合し、子ども一人ひとりの特性を起点とした“整える教育”を提唱。教育現場・保護者・指導者向けに講座を展開。



