古くなった遺言の撤回(取り消し)、内容の変更をする方法
遺言書には、本人が自らの手で書く「自筆証書遺言」、公正役場で公証人が作成する「公正証書遺言」などがあります。遺言書は書式や要件が定められており、内容に不備がある場合、法的な効力を発揮することができず無効になります。
遺された家族が相続でもめごとなどを起こさないように正しく遺言書を作成し、遺しておくことが大切です。今回は、遺言書を書く際の注意点についてご説明します。
遺言書の種類
遺言書は、大きく分けると「普通方式」と「特別方式」があります。「普通方式」には、遺言者が自分で書く「自筆証書遺言」、公証役場において公証人に書いてもらう「公正証書遺言」があります。そして、遺言の内容を秘密にした遺言書を作成し、公証人にそれが遺言書であることを証明してもらい、自分で遺言書を保管する形式の「秘密証書遺言」があります。
「特別方式」とは、病気や船舶の事故などによって遺言者に死が迫っている場合のみ認められる方式です。秘密証書遺言や特別方式の遺言は稀なケースですから、ここでは「普通方式」のうち自筆証書遺言と公正証書遺言についてご説明します。
遺言書は公的な文書
はじめに、遺言書を書く際の基本的な注意点を見てみましょう。
遺言書は、自分の財産について「誰に」「何を」「どれだけ」「相続させるか」(法定相続人以外の場合は「遺贈するか」)を明確に示すものです。
この点については、多くの人にとってもイメージしやすくわかりやすいことでしょう。
もう一つ理解しておいていただきたいのは、遺言書は公的な文書であるということです。公的な文書ですから、定められた形式に沿わない書き方をすれば、その遺言書は「無効」になります。つまり、法的な効力を持たない文書になってしまいます。
例えば、「誰に」について確認してみましょう。
田中一郎さんがAとBの土地を所有しているとします。そして、Aの土地を一人息子の田中二郎さんに相続させたいと考え、遺言書に「土地A(登記簿に記載されている通りに書きます)を二郎に相続させる」と記載したとします。
相続発生後、二郎さんは不動産名義変更の登記を法務局で行うことになりますが、この書き方では法務局で受け付けてもらえません。一郎さん・二郎さん親子にとってはもちろん、誰が見ても土地Aを相続できるのは息子の二郎さん一人であってもです。なぜなら、この遺言書の書き方では、「二郎」が「誰か」を特定できないからです。
法的に個人を特定する際は、戸籍によって行います。つまり、「誰に」を特定するには戸籍に基づいた記載でなければならないということです。「二郎に相続させる」ではなく、「長男(続柄) 田中二郎(戸籍上の氏名)に相続させる」とする必要があるのです。
自筆証書遺言の書き方
次に「自筆証書遺言」の基本的なルールを見てみましょう。
【1:手書きする】
自筆証書遺言は手書きします。以前は全文手書きでしたが、例えば不動産をいくつも持っている場合、それらをすべて不動産登記簿謄本通り正確に手書きするのは遺言者の負担が大きいため法改正が行われました。
平成31年(2019年)1月13日以降は、不動産登記簿謄本のコピーを添付したり、パソコンで書くことが可能になりました。預貯金通帳のコピーを添付することも認められています。ただし、遺言書の本文、日付・署名は手書きでなければなりません。
【2:日付を入れる】
例えば「2019年4月20日」というように、日まで明確に書きます。「4月吉日」という書き方では、無効になります。
【3:戸籍に記載されている名前を書く】
続柄・名前を戸籍に記載されている通りに記載します。
【4:印鑑を押す】
本文、日付、署名を自筆し、捺印します(できれば実印)。
なお、財産目録などの添付書類には自筆の署名と捺印が必要です。添付書類が複数枚になる場合は、書類ごとに自筆で署名し、捺印します。
トラブルを回避するために
遺言書を作成し、誰に、何を、どのくらい相続させるかを指定しておけば、遺産分割方法を相続人同士で話し合う必要がなく、相続でよく起こるトラブルを防ぐことになります。そのためにも、公的な文書として不備のない遺言書を遺す必要があります。
その点でおすすめしたいのが「公正証書遺言」です。
はじめにお話ししたように公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらうものです。公証人は元裁判官など法律の専門家ですから、作成した遺言書に形式不備があり無効になるという心配がありません。
法的に有効性のある遺言書を遺すことができ、遺言書の効力をめぐって相続人同士でトラブルが発生するのを回避することができます。また、作成した遺言書の原本は公証役場に保管されますから、紛失したり、偽造されたりする心配もありません。
ただ、公正証書遺言の作成には証人2人の立ち会いが必要になり、手数料も発生します。しかし、公証人への手数料は、相続財産が3000万円を超え5000万円以下で2万9000円、5000万円を超え1億円以下で4万3000円というように、遺言の目的たる財産の価額に対応する形で定められています。
公証人に支払う手数料などを公正証書遺言のデメリットと捉える人もいますが、正確な遺言書を遺せるということを考えれば、デメリットを補ってあまりあるメリットがあると言えます。