生前からの対策でトラブルを回避! 会社の相続手順と注意点
例えば、一家の主である夫などが亡くなると、その人の銀行預金は凍結され、配偶者の妻であっても引き出すことができません。なぜなら預金は相続財産であり、遺産分割協議により分配されるものだからです。そして、銀行預金を引き出すためには所定の手続きを行う必要があります。
しかし、預金を引き出せない場合、遺された妻などが当座の生活費に困る可能性もあります。今回は、亡くなった人の銀行預金についてご説明します。
亡くなった人の銀行預金について
銀行預金は、その口座の名義人が亡くなると一時的に凍結されます。なぜかと言えば、その預金は相続財産であり、相続財産は遺産分割協議を経て分配方法を決めることになるからです。
例えばAさんが亡くなり、銀行預金が遺されたとしましょう。相続人はAさんの奥さんと子供が2人(長男のBさん、次男のCさん)とします。
この場合、もし次男のCさんが勝手にAさんの預金を引き出したりすれば、トラブルが生じる可能性が大いにあります。Aさんの奥さん、長男Bさんから、銀行に対し「自分たちの承諾がないのに、なぜ払い戻したのか」とクレームが入ることも十分考えられます。
そこで、銀行としては遺産分割協議が確定するまで、亡くなった人の銀行口座を一時的に凍結させ、取引を停止するわけです。遺産分割協議が完了しない間は、相続財産は相続人全員のものだからです。
相続預金の払戻し制度
ただし、葬儀費用や当面の生活費などのためにお金が必要になる場合もあります。そのため、平成30年(2018年)7月の民法等の改正によって、相続預金の払戻し制度が設けられました。この制度を利用すれば相続預金のうちの一定額については、取引金融機関の窓口で払戻しが受けられます。
相続人が単独で払戻しできる額は、「相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行う相続人の法定相続分」という計算式になります。
仮にAさんが600万円の銀行預金を遺したとして計算してみましょう。払戻しを行う人はAさんの奥さんとします。
すると、「相続開始時の預金額600万円×1/3×配偶者の法定相続分1/2=100万円」ということになります。ただし、同一の金融機関からの払戻しは150万円が上限になります。
相続財産の払戻し制度には、もう一つ、家庭裁判所の判断による払戻し制度があります。
家庭裁判所に遺産分割の審判や調停が申立てられている場合、相続人が家庭裁判所に払戻しを申立て、家庭裁判所の審判を得ることによって、相続預金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から払戻しを受けることができる制度です。
ただし、当面の生活費のためにどうしても預金を払戻す必要があるなどの事情が認められた場合、また、他の共同相続人の利益を害しない場合に限られます。
相続財産の払戻しを利用するにあたり、家庭裁判所の判断によって払戻す場合は、家庭裁判所の審判書謄本や預金の払戻しを希望する人の印鑑証明書が必要になります。
家庭裁判所の判断を経ずに払戻し制度を利用する場合は、被相続人の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)、相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書、預金の払戻しを希望する人の印鑑証明書などが必要になります。
預金相続の手続きと期限
次に、預金相続の一般的な手順を見てみましょう。
(1)口座名義人が亡くなった旨を銀行に連絡します。
(2)銀行側から、所定の申込書(依頼書)や必要書類が示されます。
申込書(依頼書)の項目に記入することになりますが、申込書(依頼書)には相続人全員の署名捺印を求められるのが一般的です。
必要書類は、遺言書があるか否かによって違ってきます。遺言書がある場合は、次のような書類が必要になります。
・遺言書の写し
・亡くなった人の死亡の事実が確認できる戸籍謄本
・その預金を相続する人(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)の印鑑証明書
・遺言執行者の選任審判書謄本(遺言執行者がいる場合)
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言で手続きをする場合は不要)
・預金通帳やキャッシュカード、証書等
遺言書がない場合は、次のような書類が必要になります。
・亡くなった人の除籍謄本、戸籍謄本等(出生から死亡までつながりのわかるもの)
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明書
・遺産分割協議書
・預金通帳やキャッシュカード、証書等
(なお、遺言書がある場合も、遺言書がない場合も必要書類は各銀行で異なります)。
(3)必要書類を収集したら、銀行所定の申込書(依頼書)と一緒に提出します。
(4)預金の払戻し
必要書類を銀行が確認した後、預金の払戻しを受けます。払戻しが受けられるまでの期間は、必要書類の提出後1~2週間程度と考えていいでしょう。
なお、銀行預金は金融機関に対する預金債権のことです。債権を行使せずにいると(つまり、預金の払戻しを請求しないでいると)、その預金債権は10年(場合によっては5年)で時効消滅することになります。
ただし、実際には10年経過後であってもほとんどの銀行が払戻しに応じています。そのため「預金の相続には期限はない」と言うこともできますが、忘れるという可能性もありますし、やはり早めに手続きされることをおすすめします。