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スポーツや体育を外遊びに転換“心がけること”

吉田洋一

吉田洋一

テーマ:運動と脳

私は、子どもたちにテニスを指導する時はつぎのようなことから始めています。
子どもたちに、
 「良い悪いはないから 自由にやっていいよ 自分で考えて、身体を動かしてごらん」から始まります。
そして、その子は、
「身体をどう使おうとしているのか 」を観察します。
最後に、父母の皆様へは、次のようにお願いします。
「指示をしない ほかの子と比べない ダメ出ししない あとで叱らない」など、
「やろうとしたことを認めてほしい、褒めてほしい」正しいとか間違いではなく、
「わが子が、良い顔や嬉しそうな顔をする瞬間や姿を見てほしい」父母の気づきです。

 心がけることでたいせつことを、日本体育大学教授、子どものからだと心・連絡会議議長野井真吾先生の著書「子どもの“からだと心”クライシス」(かもがわ出版P38-43)から引用してご紹介いたします。

 「ワクドキタイムの効果」
 ある小学校で行われている「ワクワク・ドキドキタイム(通称、ワクドキタイム)」を紹介します。神奈川県相模原市にあるF小学校では、毎朝の始業前に「ワクドキタイム」と称する朝遊び活動に取り組んでいます。きっかけは、統廃合によりスクールバスが導入されたのと同時に、子どもたちの元気がなくなり、落ち着かなくなり、授業がやりにくくなったことでした。「ウソかホントかわからないけど、『じゃれつき遊び』のようなことをやりたいから付き合って欲しい」ということで、ワクドキタイムがはじまりました。
 ワクドキタイムでは、ワクドキ委員会の子どもたちが企画する遊びを朝の集会やホームルームの時間を利用してみんなで行います。すると、はじめてすぐにこの取り組みの効果が実感されることになりました。ワクドキタイムがある日は、子どもたちが落ち着いて、授業がやりやすいというのです。そのような実感が間違いではないことは、go/no-go課題の結果でも確認されています。「不活発型」の子どもが少なくなっていったのです。
 ただ、子どもたち自身がどう思っているかも気になるところです。そこで、ワクドキタイムが導入されて丸3年間が経過したときに、子どもたちの意見も聞いてみることにしました。すると、ワクドキタイムが「楽しい/少し楽しい」の回答が、実に97%に上りました。残る3%の存在が気になるところですが、その子どもたちも含めて全員がワクドキタイムは「あったほうがいい」と回答したのです。
 このような結果は、ワクドキタイムの導入が間違いではなかったこと、子どもたちもそれを望んでいたことを確認させてくれました。それもあってか、実践開始当初にいた先生が全員異動になった後も、このワクドキタイムだけは残り続け、この学校の文化としても定着していったのです。
 このような事実から、「ワクドキタイム」のような活動も、心配されている子どもの「からだのおかしさ」を解決して、子どもの「元気」を育んでくれるといえそうなのです。

「スポーツと遊びの違い」
  子どもが興奮をむき出しにして行う身体運動を伴った遊びは、子どもの前頭葉機能の発達、ひいては、“心”の育ちに効果的に作用するといえそうです。
 このようなことを講演等でお話しすると、「だから、“心”の育ちにはスポーツが必要なんですね」と話しかけてくださる方もいます。ただ、そうではないと思うのです。
 なぜならば、スポーツは「おとなの、おとなによる、おとなのため」の文化だからです。そのため、子どもが理解できないようなルールもたくさんあります。それでは、なかなかワクワク・ドキドキしきれません。
 例えば、夢中になってスポーツに興じている子どもがいたとします。あるとき、反則を宣告されてプレイが中断します。しかも、それが子どもには理解しにくいルールであれば、当然、興奮は冷めてしまうでしょう。気を取り直して、再度、盛り上がってもまた中断、盛り上がっても中断、というように、なかなかワクワク・ドキドキしきれないというわけです。
 対して、鬼ごっこはどうでしょうか。かくれんぼはどうでしょうか。「子どもの、子どもによる、子どものための」文化です。そのため、理解できないルールはありません。ときには、特別ルール等もつくって、年下の子どもたちも年上の子どもたちもお互いに盛り上がることができるようにしたりもします。その結果、極限までワクワク・ドキドキしきれるというわけです。
 実際、ワクドキタイムに関する先のアンケートでは、「ワクドキタイム」で楽しかった活動は?」も尋ねています。それによると、上位にランクされるのはスポーツのような活動よりも、「鬼ごっこ」、「チャンバラ」、「ケイドロ」、「長縄」、「大根ぬき」等々、伝承遊びのような活動ばかりなのです。このように考えると、「伝承遊び」は子どもたちがワクワク・ドキドキできる極めて優れた文化といえます。
 そうはいっても、スポーツの価値をすべて否定しているわけではありません。ワクワク・ドキドキすることが大事なのはおとなも同じです。また、これだけ時代を越えて継承されてきた文化です。この事実は、「スポーツ」がおとなたちをワクワク・ドキドキさせることができる優れた文化の一つであることの証といえます。
 考えてみれば、「いないいないばぁ」や「たかいたかい」のように赤ちゃんには赤ちゃんの「鬼ごっこ」や「かくれんぼ」のように、子どもには子どもの、「スポーツ」や「芸術」のように、おとなにはおとなのワクドキ活動があると思うのです。これらは、年齢とワクドキ活動が一致していないと奇妙な光景になってしまいます。だって、「たかいたかい」をして喜んでいるおじさんがいたらどうでしょうか。ちょっと、気味が悪いですよね。乳児や幼児がスポーツを行うことも同じなのではないでしょうか。私たちおとなは、自分たちの文化を子どもに押しつけてしまわないような注意が必要ということです。
 と同時に、子どもがワクワク・ドキドキしている瞬間、キラリと目を輝かせている瞬間は、子ども自身が前頭葉(≒心)を育てている瞬間であるともいえ、そのような活動こそが必要なのです。

 「ワクワク・ドキドキ」のススメ
 周知のとおり、日本では、心の教育という旗印の下、道徳教育やしつけ教育の必要性が声高に叫ばれています。ただ、心の身体的基盤の一部が前頭葉にあることを考えると、それらの取り組みがいかに見当違いの対策であるのかということを痛感させられます。
 これについても、先のスポーツ同様、すべての道徳教育を否定しているわけではありません。優れた道徳教育には、たくさんの可能性があると思います。意味があると思います。でも、ワクワク・ドキドキ活動とそのような道徳教育には順番があるとも思うのです。
 前述したように、子どもの“心”を育てるための取り組みは、「ワクワク・ドキドキ」できる活動にこそ、その真髄があります。要は、興奮できる活動、興奮過程を刺激する活動です。でも、興奮が必要な時期に、あまりにも厳しくしつけられすぎてしまったらどうでしょうか。あまりにもマニュアルばかり押しつけられてしまったらどうでしょうか。それでは、なかなか興奮はできませんから、いつまでたっても興奮過程が育ちません。興奮過程が育たなければ、抑制過程も育ちません。優れた道徳教育は、興奮過程も、抑制過程も強く育った上で行うことで、はじめて意味をなすのだと思います。つまり、その前提には、いつの時代のどの地域の子どもたちも当たり前のように保障されてきた豊かな「子ども時代」が必要というわけです。
 ところが、現状はどうでしょうか。公園には使用禁止のテープが貼られた遊具があり、大きな声を出して遊べば近隣の住民から怒鳴られ、塾や習いごとにも追われる毎日です。これでは、ワクワク・ドキドキできないのは当然です。子どもたちにしてみれば、ワクワク・ドキドキできるような環境をすべて奪われた中で、それでも「心を育てる」ことを要求されているのが現状といえます。
 「いわれたって無理だよ」というのが、子どもたちのいい分といえないでしょうか。

 子どもたちを「スポーツ」や「体育」で指導される皆さんへ
 今までのような、勝利至上主義や教え込み的な「スポーツ」や「体育」では、子どもたちは「心を育てる」ことはできません。
 皆さんは子どもたちに「ワクワク・ドキドキ」させる教え方や指導をしていますでしょうか。 

 次回に続きます。

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吉田洋一
専門家

吉田洋一(心身発達の心理士)

一般社団法人JSTC

子どもがテニスを通じて、身体の動かし方や潜在的な能力を引き出し、運動の基礎づくりをサポート。さらに子どもが主体的に取り組む大会を企画開催し、その中で対話的な深い学びを習得し、自律性を高める指導を行う。

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