しつけと意志の発達
乳児にとって関心の対象となるのは日々接近しているまわりの大人です。乳児は大人の姿や所作をたえず観察しています。自分の身体やその動きも探索的に観察しています。自分の身体のかたちや動きもまわりの大人のそれと共通という身体像がシェマとして根付いてきます。自分もまわりの人も「同じもの」「同型性」という感覚です。
もちろん、単に視覚的な相似性への気づきだけでなく、感覚を共有し、情動を共有し、という共有体験の積み重ねが、「同じ」という感覚形成を担っています。
自分も相手も「同じもの」という感覚の定着によって、相手のしぐさを自分もなぞって「同じしぐさ」をしようとする「模倣」が現れます。つまり、「しぐさ(行為)の共有」です。
このしぐさは、概ね10から11ヵ月頃から始まります。「いないいないばあ、おむつてんてん」など、養育者との親和的な遊びのなかで養育者から子どもに示されるしぐさの模倣から始まり、だんだん遊びを離れ、「バイバイ、ちょうだい」など社会的な意味をもったしぐさの模倣が可能になっていきます。
概ね生後半年を過ぎると「いないいないばあ」を喜ぶようになります。ピアジェ的に言えば、「対象の永続性」の認知と一体になった現象で、いったん見えなくなった親の顔が現れることを繰り返し確かめて、乳児が楽しむところが主です。フロイト的に言えば、手の陰から「バア」と現れる親の笑顔がうれしくて乳児が笑い、それがまた可愛くて親は「いないいないばあ」を繰り返し、そこに生じる性愛的・情愛的な一体感、情動の共有体験が主になります。
模倣が最初にこうした「遊び」のしぐさから始まる理由には、一つ目は養育者から直接自分に向けられたしぐさであること、二つ目はわかりやすいくっきりとしたパターンをもっていること、三つ目は楽しい情動の共有をともなっていることがあげられます。
次回に続きます。