その子の内側の体験の世界2
知らない人に出会った幼児が母親にしがみつく、母親の胸に顔をうずめる行動に、「何を怖がっているの」と突き放したり、叱ったりする親はいません。しがみついてきた幼児をしっかり抱いてやって「大丈夫、よそのおじさんよ」と、落ち着いた穏やかな態度で接します。
こうしたかかわりは、その場でのわが子の不安をなだめるだけではなく、子どもの発達を支える大きな役割をもっているのです。
親は、その「未知のひと」に対して、不安や警戒をしていません。幼児はただ抱かれて護られるだけではなく、親のその安心感を肌で取り込んで安心を得るのです。そこには、安心という「情動の共有」が生じています。
その共有に護られて、幼児は未知の相手をそっと探索し始めます。母親の胸の隅から、チラチラ知らない人の様子をうかがいます。幼児は、その人の様子ばかりではなく、母親のその人に対する雰囲気にもアンテナを向けて、まもなく「安心らしい」と警戒が解ければ、その人への積極的な観察が始まります。相手もそれに気づいて接近的にそれに応じてくれます。ひとに対する探索活動がもたらす相互交流が生み出されます。
この相互交流によって、その人は幼児にとって「未知」な存在から「既知」の存在へと移っていきます。
こうして幼児は、「知っているひと、馴染んでいるひと」を増やして、社会的な対人関係の世界を広げていきます。
安全感、安心感のもてない状況下では、「知らないもの」は不安や警戒をもたらすものになり、安全感、安心感がもてる状況下では逆に好奇心や探究心を引き出します。
知らないものだらけの世界にいる幼児が能動的な探究活動を進めて、自分なりに世界を知っていけるのは、親を中心とする周りのおとなたちによって護られている安心があればこそなのです。
次回に続きます。