その子の内側の体験の世界5
おなかがすいていたらミルク、寒ければ毛布など、私たちおとなの身体感覚のあり方にそったマザリングが重ねられます。これは自力で身体感覚を調整できない赤ちゃんに代わっておとなが調整をしているのです。
この積み重ねによって、空腹とか寒さとか言葉によって認識的に感覚をとらえ分けるわけではありませんが、それぞれの感覚の違いを赤ちゃんは、認知的に感じ分けられるようになっていきます。これが身体感覚の分化の始まりです。
マザリングを重ねるうちに、次第に親は、自分の赤ちゃんが泣いているわけを概ね聞き分けれるようになります。
「おむつだな」、「おなかがすいているのかな」など、不快の状況によって泣き方に違いがある、身体感覚の差異が赤ちゃんに認知されてきたことを気づくようになります。これが身体感覚の分化です。
赤ちゃんの世話は、ずっとスムーズになります。
赤ちゃんと親たちを集めて泣き声を当てさせる実験の例で、それぞれの親はわが子がなぜ泣いているのかは当てられるのに、よその子になると当てられないのです。赤ちゃんの泣き方はその子その子でまちまちで、このときはこう泣くという一般性をもっていないのです。親は経験的にわが子の泣き声を聞き分け、親子の間で「感覚体験が共有」され始めた段階です。
「暑い」とか「寒い」とか、一般性をもった言語によってその体験を第三者とも分かち合う社会的な共有はまだできませんが、赤ちゃんにとって他者との体験の分かち合い、こころの共有の始まりです。
赤ちゃんが個体の脳の内側でひとりで体験していた感覚世界が、その外側にいる親の感覚世界とつながるようになってきました。
授乳したりおむつを替えたりという一見して身体管理的なマザリングが、一方で安心感や基本的信頼など「関係の発達」の土台を、他方で身体感覚の分化と共有という「認識の発達」の土台を作り上げて、精神発達の大きな役割を果たしています。
次回に続きます。