発達のケアは早期に
脳を育てるとか脳をよくするとかよく耳に目にする言葉ですが、そのほとんどの理解は、「暗記力」や「知識」が豊富なことだと思っている方だと思います。
「暗記力」や「知識」だけで人間社会を生きていけるのでしょうか。このことだけではなく、「暗記力」や「知識」は、周りの人たちが、歴史的に社会的に文化的につくり上げて、共有している「意味」や「約束」からなる、物事に関して抱く、主観的な考えである観念の世界として「認識」していかなければならないと思うのです。
以前にコラムで述べましたように、今までの教育は、知識は伝達したが、子ども自身がその知識を自分なりに使うことができない知識伝達型の偏重でした。また、ともすれば、計算ができるとか漢字が書けるとかの技能の習熟的な無感動な事務的作業を押し付ける教育でした。また、序列や境界線を作るための評価であり、自己満足の自己評価、人間関係に左右される相互評価、価値観を押し付ける教師評価でした。只々偏差値の高い高校や大学へ入れるための教育ではなかったでしょうか。これでは、子どもの何の力を育てるのか、今までの「生きる力」が何なのか、また中心は誰なのか明確ではなかった。と解説しました。
2015年、OECD(経済協力機構)は、社会の発展及び個人のwell-beingにつながるような、人間が持つ様々な能力とその教育に関するレポートを発表しました。その中で、「非認知的能力の状態は、その後の認知的能力の状態を予測する」。すなわち、高い非認知的能力を備えている個人は、その後にも高い認知的能力を持つことが予想されると報告しました。が、その反対の「認知的能力の状態が、後の非認知的能力の状態を予測はしなかったと報告しています。
ご存じかと思いますが、「非認知的能力」が「関係の発達」であり、「認知的能力」が「認識の発達」です。
つまり、学力や知識、学習などのIQ、学力テスト、学業達成などに秀でても、社会性がある、意欲的である、創造性がある、忍耐力があるなど人として社会で生き抜く能力にはつながらないという結果が出たのです。また、知識などは修得したが、これを何のために使うのか学んでこなかった結果です。この結果は、日本の企業でも顕著に現れました。知識などを豊富に持っている学生を採用したが、その知識などを企業に活かすことは無かった人材でした。日本は国際競争力が低下してしまいました。
この現状は、学校教育に大きな影響を与えました。新しい学習指導要領(新しい学習指導要領(2020~2023))に「生きる力」がつくられました。「生きる力」は、これまでの学校教育で育まれるものとは異なるため、現状の子どもたちが抱える課題を踏まえたうえで、学校教育(2008(H20)から取り組んでいる)で育成を目指す「生きる力」を改めて捉え直す必要が出てきました。つまり、何のために学ぶのかを定義付けしました。
こういった背景は、子どもたちがこれから社会を創り出していくためや社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、そして向き合い関わり合いながら、自らの人生を切り拓いていくために必要だからに他なりません。つまり、ただモノとしてある環境世界に物質的に関わることではなく、周りの人たちと対人関係的に社会的に関わっていく「関係の発達」を学校教育にも委ねたのです。
学校は、子どもが「よりよい学校教育を通じて、よりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む」ために「関係の発達」と「認識の発達」を相互的に育んでいくことが求められます。
また、保護者の方や保育に携わっている方にも、より多くのスキンシップや安心や関心の共有をしていただくことを望みます。
そして、子どもにとっての理解や判断という「認識の発達」を人と交流したり分かち合う体験「関係の発達」の中から育むこともできます。つまり、非認知的能力を使いながら、認知的能力を引き出すことができるのです。
前回の同様のものを提示します。
「脳を育てることは、認識の発達と関係の発達を相互に育むこと」であり、これが「子どもの心身の発達のケア」になります。あくまでも、私見です。
1 シナプスの刈り込み前にケアをする。8歳頃がピークですが、15歳頃までにケアをする。
2 神経細胞(ニューロン)と神経細胞(ニューロン)の接点であるシナプスを増やす。脳のネットワークを増やす。15歳までにケアをする。
3 神経栄養因子をつくる。15歳までにケアをする。
ケアについては、前々回までにコラムで説明させていただきました。
保護者の皆さま、保育に、教育に携わっていらっしゃる方々の皆さまへ、このように、子どもの心身の発達のケアは、脳からみますと早急に行う必要があります。
次回に続きます。