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「体育」は、からだを育てることが最終目的

吉田洋一

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テーマ:運動による心身の発達

 前回、アメリカの学校の体育の授業で「生きる力」をケアしている実例を紹介しました。
 日本の学校での体育の授業の内容はわかりませんが、画期的な「体育」授業の提言をご紹介いたします。

 前にご紹介しました、日本体育大学野井真吾教授は、「子どものからだと心・連絡協議会議長」でもありますが、為末大氏との対談で「体育」について次のように述べております。(体育教育2022年11月号大修館書店)
 長年、子どものからだと心にこだわった研究活動をしてきました。「からだ」はひらがな、「心」は漢字なのは、心もからだを通して見ようと考えているからです。というのも、学校で行う活動をベースで支えているものは、「子どものからだと心の現状」だと考えています。授業などすべての活動は、その根底にある子どものからだと心のことを考慮して展開されていて、実はここにすごくコミットしているのが体育だと思います。したがって、国語を支えているのも体育、算数を支えているのも体育というような感覚があっていいんじゃないかと。体育は「体を育てる」と書きますが、この第一義的な目的に立ち返ることが必要だと思います。体育では、スポーツをツールにしながら、からだを育てることが最終目的という点を押さえておく必要がある。そうするといろいろな見方が変わると思います。(p1-2)

 正に、野井先生が述べていることが「生きる力」のケアではないでしょうか。
 野井先生につきましては、前のコラム「楽しい、心地よい身体運動」を行う環境が必要その2」でご紹介申し上げました。<スポーツと遊びの違い>をスポーツ指導者はどのように受け止めたのでしょうか。まだ子どもたちに「勝つことがスポーツだ!」を植え付けているのでしょうか?
 また、私の私見を繰り返し述べさせていただきますが、中学生までは競技スポーツも含めてスポーツは、「遊びという、楽しい心地よい運動」として捉える必要があります。
 なぜ、中学生までの子どもなのでしょうか。それは、現代の子どもには、外遊びができない環境や状況にあるからです。子どもにとって外遊びは、「心身の発達づくり」に必要不可欠だからです。このことは、脳のシナプスの刈り込み(どのシナプスが生き残るか)前に、ケアをしなければならないからなのです。大人になってからでは遅いのです。
 前のコラム「「生きる力」は、自分と向き合う勇気」で述べたように、中学校での土日や祝日の部活動は地域移行する方針ですが、それと同時に、中体連が競技スポーツの組織から脱退し、勝ち負けだけの競技スポーツは廃止すべきだと考えます。また、部活動もそうあるべきです。「心身を育てるために、勝たなければならない」とか「勝たなければ、心身は育たない」的な指導は詭弁です。中体連は子どもたちの心身を育てるための組織です。勝負を競う組織ではないはずです。ただ、競技スポーツがダメと言うつもりは全くありません。中学生でも、その競技スポーツに特異な子であれば、中体連ではない、競技スポーツ専門の団体において、切磋琢磨すべきものと思います。
 中学生は中学校という活動の環境の中に存在します。中学校の「体育」が子どもたちの「体を育てる」ためにあると考えます。その「体育」の授業において、コオーディネーショントレーニングやスポーツ、競技スポーツをツールにすることが子どもたちの「優越性の追求の方向付け」や「共同体感覚」をくすぐるのです。その経験により、子どもたちは「自分と向き合う勇気」や「自己肯定感」を養うのです。
 つまり、学校の「体育」という授業が子どもたちの「体を育てる」ためにあるのであれば、子どもたちに「真の笑顔」として表情に現れます。また、表情には見えませんが、子どもたちの脳では、「脳の可塑性」や「シナプスの可塑性」が促されるのです。
 アルフレッド・アドラーは、「体育とダンスは、身体の安全を達成するための表現である。特に、身体を確実にコントロールすることによって得られる精神的な安全の表現である」と説きます。
 余談ではありますが、当法人が企画している「Jr-open」は、この活動に他なりません。次回に続きます。

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吉田洋一
専門家

吉田洋一(心身発達の心理士)

一般社団法人JSTC

子どもがテニスを通じて、身体の動かし方や潜在的な能力を引き出し、運動の基礎づくりをサポート。さらに子どもが主体的に取り組む大会を企画開催し、その中で対話的な深い学びを習得し、自律性を高める指導を行う。

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