培ってきた脳の発達2
前回、神経発達症(発達障害)のケアには「活発に、身体を動かすこと」が必要であることを説明しました。「活発に」とは、自ら、自主的に、自分の意思で、自己決定でなど他の人が指示、命令、指導など関与しない、「心地よい身体の運動」が必要ですと解説しました。
なぜ「楽しい、心地よい身体運動」が人間には必要なのでしょうか。「楽しい、心地よい身体運動」環境を違う視点から考察してみましょう。
アメリカの医学博士ジョンJ.レイティは、その著書「脳を鍛えるには運動しかない」NHK出版において、次のように述べています。
<走るべく生まれついている>
生物学者ベルント・ハインリヒは、その著書「アンテロープを追う:走ることと生活について動物がわたしたちに教えてくれること」のなかで、人類を「持久力のある捕食者」と評している。今日のわたしたちの体を支配している遺伝子は10万年以上前に進化したものであり、そのころ人類は絶えず動きつづけていた。食べ物を探し回ったり、何時間も何日もかけて平原でアンテロープを追ったりしていたのだ。ハインリヒによれば、アンテロープは哺乳類のなかでも最も足の速い種のひとつだが、わたしたちの祖先はそれを狩ることができたそうだ。どうやって?逃げる力なくなるまであとを追いつづけたのだ。アンテロープは短距離走者で、その代謝系では、いつまでも歩き続けることはできない。だが、人類にはそれができる。また、わたしたちの筋肉繊維は収縮の速いものがバランスよく組みあわされているので、延々と野山を越えたあとでも、一気に走って獲物を仕留めることができるのだ。
もちろん今日では、生きるために採集や狩りは必要ない。しかし、わたしたちの遺伝子には狩猟採集の行動様式がしっかり組み込まれていて、脳がそれをつかさどってるようになっている。従って、その活動をやめてしまうと、10万年以上にわたって調整されてきたデリケートな生物学的バランスを壊すことになる。簡単に言ってしまえば、体と脳をベストな状態に保ちたいなら、この歴史の長い代謝システムをせっせと使うべきなのだ。DNAに刻み込まれた古代の活動は、おおまかにウォーキング、ジョギング、ランニング、全力疾走に置き換えることができる。そして、この祖先の日常の活動を真似しなさい、というのがわたしに言える最善のアドバイスだ。つまり、毎日、歩くかゆっくり走るか、週に二、三回は走り、ときどきは全力疾走で獲物を追うのだ。(同p311-312)
このように、人間は生存するために狩猟採集をしていました。そして生きるため、家族や一族を養うためや身体の生物学的バランスを保持・維持などするため捕食の活動をしてきました。つまり、身体運動は生きるための手段でした。では、狩猟採集しているときの身体運動で、ひとに何が起きているのでしょうか?当然ながら、獲物を得たときの喜び、達成感やそれを食べた時の満足感、幸福感などですが、脳では神経伝達物質が盛んに神経細胞(ニューロン)同士を繋ぎ合って、物事を記憶したり、行動を起こす役目をしているのです。
神経伝達物質には、満足感や幸福感を感じたときに出る「セロトニン」、楽しいと感じたときに出る「ドーパミン」、記憶・学習・認知・睡眠に関係している「アセチルコリン」、緊張感を感じるときに出る「ノルアドレナリン」などです。
当然ながら、大人だけが脳に神経伝達物質が必要なのではなく、乳児を含め子どもにとってもたいせつなものなのです。脳で起きていることは見えませんが、その兆候が子どもの身体活動から見えてくるのです。次回に続きます。