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脳の発達には「楽しい、心地よい身体運動」を行う環境が必要その2

吉田洋一

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テーマ:運動による心身の発達

 前回、脳の発達には「楽しい、心地よい身体運動」を行う環境が必要ですと説明しました。その環境には、1に「経験を増やす」こと、2に「勝ち負けに拘らない」こと、3に「自分の力でどれくらいできるか」が必要であることを述べました。別な観点から、事例をご紹介します。
 日本体育大学野井真吾教授は、「子どものからだと心・連絡協議会議長であり、著書「子どもの“からだと心”クライシス」㈱かもがわ出版で次のように述べております。
 <スポーツと遊びの違い>
 子どもが興奮をむき出しにして行う身体活動を伴った遊びは、子どもの前頭葉機能の発達、ひいては“心”の育ちに効果的に作用するといえそうです。
 このようなことを講演等でお話しすると、「だから“心”の育ちにはスポーツが必要なんですね」と話しかけてくださる方もいます。ただ、そうではないと思うのです。
 なぜならば、スポーツは「おとなの、おとなによる、おとなのため」の文化だからです。そのため、子どもが理解できないようなルールもたくさんあります。それでは、なかなかワクワク・ドキドキしきれません。
 例えば、夢中になってスポーツに興じている子どもがいたとします。あるとき、反則を宣告させてプレイが中断します。しかも、それが子どもには理解しにくいルールであれば、当然、興奮は冷めてしまうでしょう。気を取り直して、再度、盛り上がってもまた中断、盛り上がっても中断、というように、なかなかワクワク・ドキドキしきれないというわけです。
 対して、鬼ごっこはどうでしょうか。かくれんぼはどうでしょうか。「子どもの、子どもによる、子どものため」の文化です。そのため、理解できないルールはありません。ときには、特別ルール等もつくって、年下の子どもたちも年上の子どもたちもお互いに盛り上がることができるようにしたりもします。その結果、極限までワクワク・ドキドキしきれるというわけです。
 実際、ワクドキタイムに関する先のアンケートでは、「ワクドキタイムで楽しかった活動は?」も尋ねています。それによると、上位にランクされるのはスポーツのような活動というよりも、「鬼ごっこ」、「チャンバラ」、「ケイドロ」、「長縄」、「大根ぬき」、等々、伝承遊びのような活動ばかりなのです。このように考えると、「伝承遊び」は子どもたちがワクワク・ドキドキできる極めて優れた文化といえます。
 そうはいっても、スポーツの価値をすべて否定しているわけではありません。ワクワク・ドキドキすることが大事なのはおとなも同じです。また、これだけ時代を越えて継承されてきた文化です。この事実は、「スポーツ」がおとなたちをワクワク・ドキドキさせりことができる優れた文化の一つであることの証といえます。
 考えてみれば、「いないいないばぁ」や「たかいたかい」のように赤ちゃんには赤ちゃんの、「鬼ごっこ」や「かくれんぼ」のように子どもには子どもの、「スポーツ」や「芸術」のようにおとなにはおとなのワクワク・ドキドキ活動があると思うのです。これらは、年齢とワクドキ活動が一致していないと奇妙な光景になってしまいます。だって、「たかいたかい」をして喜んでいるおじさんがいたらどうでしょうか。ちょっと、気味が悪いですよね。乳児や幼児がスポーツを行うことも同じなのではないでしょうか。私たちおとなは、自分たちの文化を子どもに押しつけてしまわないような注意が必要ということです。
 と同時に、子どもがワクワク・ドキドキしている瞬間、キラリと目を輝かせている瞬間は、子ども自身が前頭葉(≒心)を育てている瞬間であるともいえ、そのような活動こそが必要なのです。(同p40-42)
 野井先生の解説を含めて私の私見ですが、中学生までは競技スポーツも含めてスポーツは、「遊びという、楽しい心地よい運動」として捉える必要があると思っています。なぜ、中学生までの子どもなのでしょうか。それは、現代の子どもには外遊びができない環境や現状にあるからです。外遊びといえば、おとなには「何言ってんの」といわれそうですが、子どもにとって外遊びは「心身の発達づくり」なのです。次回に続きます。

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吉田洋一
専門家

吉田洋一(心身発達の心理士)

一般社団法人JSTC

子どもがテニスを通じて、身体の動かし方や潜在的な能力を引き出し、運動の基礎づくりをサポート。さらに子どもが主体的に取り組む大会を企画開催し、その中で対話的な深い学びを習得し、自律性を高める指導を行う。

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