自分なりに「わかること」と「できること」
前回、発達障害のケアには、脳を育てることが必要であることを説明しました。早期に「脳の神経回路を変化させる」ことが、ケアにつながるといわれてもどうすればいいかわからないのが当たり前です。脳についてご理解いただくためにもう少し詳しく説明いたします。
説明の前にこの二つの用語を覚えてください。「脳は変化し、その変化は保持される」「使われないシナプスは衰退し、使われるシナプスは強化される」です。
これを脳の可塑性といいます。脳は経験によって変化し、その変化が長く残る特徴をもっています。このような特徴を「脳の可塑性」と呼んでいます。可塑性とは、一般に個体に外力を加えて変形させ、力を取り去っても元に戻らない性質、変化し、その結果が残るような性質のことをいいます。
コンピュータと私たちの脳を比べてみると、脳の「可塑性」がよくわかります。現在、私たちが使用しているコンピュータはいろいろと複雑な機能をこなしますが、機械・装置としての物理的な構成要素であるハードウェアは使用しても変化することはありません。コンピュータからいろいろな機能をこなすことができるのは、ソフトウェアの働きによります。例えば、インターネットにアクセスするときに使用するブラウザーの働きは、使うと学習しユーザーに合わせて「賢く」なりますが、この機能もソフトウェアの中に書き込まれた機能です。一方、脳は神経組織の配線が変化して「賢く」なります。言い換えれば、ハードウェアが変化して賢くなる特徴をもっています。これが脳の可塑性です。(「脳の教科書」三上章允著 講談社 p103,104)
では、脳では、どこがどのように変化して可塑性を成しているのでしょうか。
脳では、脳の変化はシナプスで起きています。脳では、よく使われたシナプスの伝達効率が高まります。その結果、活動しやすい神経細胞のネットワークが強化されます。このように脳の変化が保持されたものが、記憶や学習です。
シナプスでの伝達効率の変化は、シナプス棘の形成やシナプス発芽として現れます。シナプス棘は英語でとげという意味のスパインといいます。神経細胞(ニューロン)の樹状突起の表面に棘状に多数存在し、この棘にシナプスが付着します。棘あることによって樹状突起の表面積が増加し、より多くのシナプスが接続できます。また、棘の形が変化することによってシナプスで発生した電位の伝達効率が変化し、シナプスの伝達効率の変化に寄与すると考えられています。これを「シナプスの可塑性」といいます。(「脳の教科書」三上章允著 講談社 p105)
発達障害とは「何らかの精神発達のおくれをもち、それが生きにくさをもたらしている」と説明しました。また脳の機能障害によるものと説明しました。
前回説明しました発達障害の対応です。復習しましょう。コミュニケーション症群では、聞き返しはしない、つまり、苦手意識、恥ずかしさをつくらないことです。また、加齢にしたがって改善する可能性がありますので焦らないことです。自閉スペクトラム症では、変化を嫌い、恐ろしがるしぐさがあので、視覚的印象を活かしたものにします。また、強制しない一貫性のあることがたいせつで、わが子の安全性を保持します。注意欠如・多動症(ADHD)では、行動を統制するためのチェックリストなどを利用します。自己評価を下げないためにも「良い」評価とできることを保証してください。何といっても保護者のサポートが必要です。限局性学習症(学習障害、LD)では、わかりやすい教え方や身体のバランスの強化や感情の表現と理解を促します。発達性協調運動症では、競争的競技(勝ち負けだけの競技)に無理に参加させないことや適切な手助けをすることや時間がかかりますが徐々に身のこなしが滑らかになります。
保護者の方は、このような発達障害の対応はやっているが効果がないとか悩んでいらっしゃる方が大勢だと推察いたします。
まず、はじめに行う対応は、わが子の「脳の可塑性」です。とてもたいせつなことです。次回に続きます。