遺産相続では、生前贈与を受けた分も計算しなければならない?
民法では、亡くなった方(被相続人)に子がいる場合には、相続人は配偶者と子になります。法定相続分は配偶者が2分の1、残りの2分の1を、子が人数によって分けることになります。たとえば、父が死亡し、母(父の妻)と長男、二男がいるときには、法定相続分は母が2分の1、長男が4分の1、二男も4分の1となります。
その際、子は亡くなった父の子であれば、前妻との子であっても当然に相続権があります。たとえば、XがYと結婚し、この夫婦の間で長男A、長女Bが産まれたとします。しかし、その後、夫Xと妻Yは離婚、後に、XはZと再婚しましたが、Zさんとの間には子供が産まれないまま、数年後に亡くなったとします。
この場合、亡くなったXさんの相続人および法定相続分は、死亡時の配偶者であるZが2分の1、Xの子であるAとBが各4分の1となります。離婚したYには相続権はありません。しかし、教科書的に書けばそうなのですが、現実の相続の場面で考えると、この遺産相続は典型的な揉めやすいパターンといえます。
まず、夫Xが妻Yと離婚し、Zと再婚した経緯が問題となります。仮に、XがYと婚姻中であるにもかかわらず、Zと不倫関係にあり、泥沼の離婚調停を経てYと離婚して家を出て行き(AとBの親権者はYになった)、Zと再婚したような場合、つまり、いわゆる「略奪婚」の場合には、通常は、XとYの間に産まれた子であるAとBは、母親の敵であり、自分たちから父親を奪ったZを敵視しているでしょう。そうなると、Xの遺産相続について、相続人であるZ、A、Bの3人が、遺産分割協議を円満に行うというのは、なかなか難しいものがあります。これは、逆に、妻Yが夫以外の男性Wと不倫して、子供ABを置いて家を出て、Wと再婚した場合も同様です。
また、Aは成人に達しているが、Bが未成年者の場合には、Bの法定代理人であるYが、Bのために遺産分割協議を行うことになります。つまり、Z、Y、Aの3者で話し合うことになるので、相当揉めることが予想されます。
なお、余談ですが、夫Xと妻Yが離婚した経緯が、上記のようにXの不倫によるものではなく、逆にYに責任がある場合(不倫、浪費など)であっても、子供を引き取った(親権者となった)のがYであれば、YやYの親族は、得てして子のAやBに対して「あなたのお父さんは、自分勝手に子供を置いて家を出て行ったのよ」という説明をするか、あるいは「あなたのお父さんは、あなたが幼いうちに死んでしまったのよ」という説明をすることがあります。そうなると、いざXが「本当に死亡した」場合、やはりXの後妻Zと、子A、Bの間で遺産分割協議をするのは、A、Bとしては複雑な心情になるでしょう。
では、離婚ではなく死別、つまり、夫Xと妻Yは夫婦として円満に生活し、この夫婦の間で長男A、二男Bが産まれたが、Yが若くして事故や病気で亡くなり、その後、十数年が経ってから、Xが年の差婚で若い女性のZと再婚した後で亡くなった場合にはどうでしょうか?
A、Bとしては、自分たちを男手ひとつで育ててくれた父Xには感謝の気持ちこそあれ、憎む気持ちはありません。また、同じ男性として、若い女性のZと再婚したことについても、父Xの気持ちを理解は出来ます。
しかし、こと遺産相続となると、どうしても「Zに遺産の半分を持って行かれる」とか、「Zは親父の遺産目当てに近づいてきたのではないか」とか、勘ぐってしまうこともありえます。特に、Xがある程度財産を持っている(ゆえに再婚しやすい?)場合にはなおさらです。これは、仮にZにそのような意図がない場合でも、そう言う目で見られやすいということです。
逆に、若くして亡くなったのが夫Xの方で、Yは女手ひとつでA、Bを育て上げたあとにWと再婚したあと亡くなった場合でも、Yの財産がもともとはXから相続した自宅などであるような場合には、やはりこの自宅をWが相続することに納得がいかないような場合もあります。特に、Xが地方の名家の長男であり、先祖代々の財産を受け継いできているような場合には、昔の家督相続的な考え方では、その財産はXの長男Aが相続すべきということになりますから、周りの親族も(現代の民法上は当事者ではありませんが)口を出したくなります。
したがって、このような家族関係にある方は、遺言の作成や生前贈与などを活用して、きちんとした対策をしていくことが、残された妻や子供のためにも必要になります。