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きけない話

坂部智子

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テーマ:母の介護

母がショートステイとデイサービスでお世話になっている、地元の「会館」が
新しくなって5周年らしく、昨日「五周年記念誌」というのをもらってきていた。
ショートステイ、デイサービス、小規模多機能、ヘルパーステーション、介護相談室。
それぞれのご利用者さんからの聞き取りをまとめたもの、各スタッフさん達の一言など
人生の断片や、仕事への取組みなど、いろいろ盛りだくさん。
こうして紙面に残る・・・というのは、いいもんだなぁ と思った。

ちょっと前なら母も、山ほど昔の話をしていたので、
聞き取ってまとめるのが追いつかないほど、いくらでもネタがあった。
今ではもう、何も出てこない。

はっきりと認知症が進んできている・・・と、こちらが認識するずいぶん前から
何度も同じ話をする・・・ということは、よくあった。
おそらくもう六〇代後半ぐらいから。
そのころは私も家を出ていたので、帰るたび繰り返される話に、
けっこうげんなりする時もあった。
「前も聞いたし~」、「わかっとうって・・・」、「ハイハイ、ほんでさ~・・・」
と、話の腰を折っていた。

「認知症」だとわかってからは、さらにひどくなった。
こちらもいちおうは、仕事柄わかっているので、「病気だから」と思いながらも、
なんとも悲しくて、今思えば傲慢だけど、
悔しくて、情けなくて・・・・結局のところ、ちゃんとは受け取ってはいなかったんやな。
あれだけ、繰り返して聞いたのだから、全部覚えているかというと、半分も覚えられていない。
もう、聞けないのに。
そう、もう二度と聞けないのだ。

過ぎてから、後悔することがあるのは、仕方ない。
どうやっても後悔はするんやと、ある意味ふてぶてしく、腹をくくって母と過ごしてきたつもり。
けど、この後悔は、ちょっと大きいなあ。
もう聞けない話が、母の中には、たくさんある。

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