揖保乃糸のそうめんは、しっかりとした品質管理で最高級の素麺になった!
ゆで伸びしにくく、滑らかな舌ざわり、コシと歯切れのよい食感が特徴の「揖保乃糸」。美味しさの秘密は、伝統的な手延べ製法にあります。今回は「揖保乃糸」の製造工程などについてご紹介します。
美味しい手延べそうめん「揖保乃糸」の製造工程の特徴
「揖保乃糸」は、毎年10月から翌年の4月に掛けた期間を限定して生産しています。そして、製造は早朝から開始されます。
まず、小麦粉に食塩と水をこね合わせ、「めん生地」を作る「こね前作業」を行います。そして、よくこねた素麺生地は、幅はおおよそ10cm、厚さは約5cmの麺帯(めんたい)にする「板切作業」を行います。
そして、採桶(さいとう)と呼ばれる桶に、巻きながら入れていきます。そして麺帯を数本に分けてロールに通して長い1本にし、数本を合わせてロールにして1本にする作業を繰り返します。
麺帯をロールに通し、さらに細い麺紐(めんひも)という状態にする「油返し作業」を行います。その後、麺紐を約3時間ねかせて熟成させます。
ねかせた麺紐によりを掛けながら、ロールで直径12mmの細さにする「細目作業」を行った後に、2回目の熟成を1時間行います。
2回目の熟成を終えた麺紐を、さらに直径6mmまで細長くする「小均(こなし)作業」を行い、3回目の熟成を4時間行います。
3回目の熟成を終えた麺紐を、掛巻機(かけばき)という機械で、麺紐によりをかけながら、2本の管に八の字を描くように掛ける「掛巻作業」を行います。そして、室箱(おも)に入れて4回目の熟成を1時間行います。
室箱から取り出した麺紐を、熟成の進み具合や翌日の天候を考慮して、だいたい50cmほどに引き延ばす、「試し引き作業」を行います。その後、長年の経験が培った感覚をもとに、効率的に延ばす「小引き作業」を行います。そして再び室箱へ収め、翌朝まで約12時間熟成させます。
熟成後、小分けされた麺紐を4本から5本ずつ棒のような「はた」につけていき、麺を1.6mに延ばす「あしづけ作業」を行います。さらに1.6mから2mへと徐々に延ばす「はたうわぬきあげ作業」を行います。
「はたうわぬきあげ作業」を行った後は、麺にハシを入れて均等にさばきます。乾燥室の温度や湿度、天井扇からの風の流れを見ながら、丁寧に向きをかえて乾燥させ、最後に仕上げ乾燥で均一に乾燥させます。
麺の水分が13%に乾燥したら、素麺を19cmの長さに切断します。その後は軽量、結束し、金属検出機を通して品質を確認しながら箱詰めされます。さらに検査指導員による格付検査を行い、組合専用保管倉庫で保管されます。
このようにめん生地を引き延ばしたり、熟成を繰り返し、乾燥・裁断まで、何工程も丁寧に行い1本の素麺が作られます。
「揖保乃糸」の食感の心地よさを生み出す「厄」とは
手延べ素麺「揖保乃糸」を電子顕微鏡で見てみると、小麦粉に含まれるタンパク質のグルテンが縄状になっていて、円形のでんぷん粒を包み込むように延びています。手延べ素麺の行程における「熟成」と棒状に麺によりをかけて「延ばす」作業を繰り返すことで、このようなグルテンの構造が作り出されます。
保管倉庫で素麺は1年熟成されるものを「ひね」と呼んでいます。冬に製造され、高温多湿の梅雨時期を経ることで、空気中の湿気が素麺に含まれ、梅雨明け後に湿気が抜けていきます。
その時に原料の小麦粉に含まれる酵素の働きで、成分の化学変化が起こるのですが、これが素麺のでんぷんやタンパク質に影響を与え、素麺のコシや舌触りのよさを作り上げます。
この現象のことを「厄(やく)」と呼び、より美味しくなるので「厄上がり」や「厄をすませる」と表現します。
美味しい「揖保乃糸」を作るために受け継がれてきた600年の伝統技法
素麺の製造には良質な水が不可欠といわれており、兵庫県南西部を流れる一級水系揖保川中流域、千種川上流域、夢前川上流域を中心に「揖保乃糸」は生産されています。
古来より「播磨国」「播州」と呼ばれる地域で瀬戸内海・播磨灘に面し、雨が少なく穏やかな気候の地域です。恵まれた気候の播州平野で採れる小麦や大豆と同じ、播州の特産の「赤穂の塩」を使って素麺が作られたのです。
揖保郡太子町の斑鳩寺に残る古文書の「鵤庄引付」の中には、応永25年の条に「サウメン」という記述があるほど、この地域の素麺製造の歴史は古く、600年以上の歴史があります。
1770年代の江戸時代後期には製造が本格化し、1800年初頭には龍野藩が素麺作りの保護育成に力を入れ、産地化したといわれています。
古くから伝わる「手延べ製法」は受け継がれ、今も伝統の技を守り続けています。