「働く」の前に、自分を知ることが大切な理由
新しい家電を買ったとき、使い方が分からなければ取扱説明書を読みます。
どんな機能があるのか。
どんな使い方が適しているのか。
どんなことに注意すればよいのか。
では、自分自身についてはどうでしょうか。
自分がどんなときに調子を崩しやすいのか、どんな環境なら落ち着いて過ごせるのか、困ったときにはどうすればよいのか。
意外と、自分のことなのによく分からないという方も少なくありません。
私たちは、自分自身にも「取扱説明書」があってよいのではないかと考えています。
自分のことは、自分が一番よく知っている?
「自分のことは、自分が一番よく分かっている」
そう思っていても、実際には説明するのが難しいことがあります。
例えば、
「人と話すのは嫌いじゃないけれど、大人数だと疲れてしまう」
「急に予定が変わると、頭の中が整理できなくなる」
「口頭で説明されるより、紙に書いてもらう方が理解しやすい」
「一人で考え続けるより、誰かと話すことで気持ちが整理できる」
こうした自分の特徴は、普段の生活の中では当たり前になっていて、なかなか気づかないものです。
しかし、それを知ることができれば、暮らし方や人との関わり方、働き方を考えるヒントになります。
苦手なことだけを書き出すものではありません
「自分の取扱説明書」と聞くと、苦手なことや困りごとを整理するものだと思われるかもしれません。
でも、それだけではありません。
自分が得意なこと。
好きなこと。
安心できる場所。
うまくいった経験。
気持ちを切り替えられた方法。
こうしたことも、自分を知るための大切な情報です。
例えば、「集中力が続かない」という困りごとがあったとしても、「静かな場所で、一つずつ取り組むと集中できる」という発見があるかもしれません。
大切なのは、苦手なことをなくすことだけではなく、自分が力を発揮しやすい条件を見つけることです。
自立訓練で大切にしたいこと
PiSTEJAPANの自立訓練(生活訓練)では、当事者研究の考え方も取り入れながら、自分自身を知る機会を大切にしています。
当事者研究とは、自分の困りごとや経験を振り返り、周囲の人と一緒に、その背景や対処方法を考えていく取り組みです。
例えば、うまくいかなかった出来事があったとき。
「どうしてできなかったのか」と原因を追及するだけではなく、
「どんな状況だったのか」
「そのとき、どんな気持ちだったのか」
「以前、うまくいったときとは何が違ったのか」
「次はどんな方法を試してみようか」
と、一緒に考えていきます。
その中で見つかったことを少しずつ整理していけば、自分だけの「取扱説明書」ができていきます。
もちろん、最初から完成したものをつくる必要はありません。
新しい経験をするたびに書き加えたり、以前の考えを見直したりしてもよいのです。
自分自身も、生活環境も、時間とともに変わっていくからです。
自分を知ることは、周囲に伝えることにもつながる
前回のコラムでは、「相談する力」についてお伝えしました。
自分の取扱説明書があると、困ったときに必要なことを相手に伝えやすくなる場合があります。
例えば、
「急な変更が苦手なので、できれば事前に教えてほしいです」
「一度にたくさん説明されると混乱するので、一つずつ確認したいです」
このように、自分の特徴を具体的に伝えることができれば、周囲も一緒に工夫を考えやすくなります。
これは、働く場面だけではありません。
家庭でも、学校でも、地域での生活でも役立つ力です。
そして、自分の取扱説明書は、誰かに自分を評価してもらうためのものではありません。
自分自身が、より過ごしやすい方法を見つけるためのものです。
自分らしい暮らし方に、正解はありません
誰かにとってうまくいく方法が、自分にも合うとは限りません。
反対に、ほかの人には難しいことでも、自分には無理なくできることがあるかもしれません。
だからこそ、周囲と比べて「できる」「できない」を判断するのではなく、自分に合った方法を探していくことが大切だと思います。
自分の特徴を知り、必要な工夫を見つけ、周囲にも伝えられるようになる。
その積み重ねが、日々の暮らしを少しずつ過ごしやすいものにしていきます。
PiSTEJAPANでは、こうした一人ひとりの発見を大切にしながら、自分らしい暮らし方や将来の選択肢を広げる支援に取り組んでいます。
自分の取扱説明書は、自分を決めつけるためではなく、自分の可能性を広げるためのもの。
そんな考え方を、これからも大切にしていきたいと思います。
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次回は、「自立訓練は、就職するためだけの場所ではありません」についてお伝えします。


