「合併症」はやむをえないもの、諦めなければならないもの?
前回のコラムでは、抗菌薬の適正使用について、主に医療関係者や裁判官へのメッセージのような投稿をしました。
ですが、「抗微生物薬適正使用の手引き」には、「推奨事項の内容は、抗微生物薬の適正使用の概念の普及、推進を遂行するために欠かせない、処方を行わない医療従事者や患者も対象とした内容としていることから、すべての医療従事者や患者にご一読頂きたい。」と書かれていますので、医療関係者ではない一般人のみなさんにも正しく理解していただけるよう、少し書かせていただきます。
なお、一般の方は「抗生物質」という言葉を使うことが多いと思われるので、このコラムでは抗菌薬のことを「抗生物質」と書きます。
抗生物質は風邪には効かない
以前のコラムでも説明していますが、風邪の原因のほとんどはウイルスです。ウイルスと細菌は別のものです。抗生物質は細菌をやっつける薬です。ですから、抗生物質はほどんどの風邪に効きません。
抗生物質の強さ?
抗生物質は「強い薬」だと思っている一般の方は少なくないように思われます。
これはいろいろな理由があるのだろうと思いますが、推測すると、「症状が重いときに処方されて治ったことがあるから」という経験があるからのように思われます。
確かに、確率は低いですが、たまたま抗生物質が効く細菌による感染症だったため、本当に抗生物質が効いたということもあると思います。
しかし、上記のとおり、抗生物質はほどんどの風邪に効きません。ですから、抗生物質を飲んだら治ったというのは、たまたま自然に風邪が治ってきたタイミングと重なっただけだった可能性があるのです。
抗生物質は、非常に数多くの種類があり、効く細菌の種類も非常に多様です。ですから、「強さ」というものを比較するのは基本的に難しいとされています。
医療関係者の方が抗生物質の強さと言われて比較しているのは、「販売量」や「効く細菌の範囲の広さ」ということが多いようです。販売量はもちろん強さそのものではありませんし、効く範囲が広くても効果の強さの程度まで強いとは限らないので、効く細菌の範囲の広さも、必ずしも強さを表しているとは限りません。
このように、抗生物質を「強い薬」だといえる根拠はあまりないのです。
抗生物質は「適正に使用してもらうもの」
これも以前のコラムで書いたことですが、患者の側が勘違いして、「強い(と勘違いしている)」薬が欲しいなどと求めてしまうと、お医者さんの方でも欲しがる患者さんに配慮して、わざわざ処方してくれる人もいるのではないかと思います。
これは、患者さんへの配慮の気持ちからということになるので、「抗微生物薬適正使用の手引き」が発行された現在であっても当てはまってしまうことだと思います。
「抗生物質は強い薬ではなく、必要な時にだけ正しく使ってもらう薬である」
私たち患者が、正しい知識を持つことが大切なことだと思います。
「抗微生物薬適正使用の手引き」を全部読むのは難しいと思いますが、患者さんに対する医師からの説明例のところなどは読みやすいと思いますので、みなさんぜひそこだけでも読んでみていただければと思います。