「合併症」はやむをえないもの、諦めなければならないもの?
医療事件では、病院側からの主張として、「このような対応は医療現場の通常の対応であるから、過失はない」というような反論がなされることがあります。
なんとなく、医療現場で広く行われていれば確かにそうなのかなと思ってしまいがちですが、実は、そんなことはありません。
医療慣行とは
この「医療現場で一般に行われている医療行為」は、「医療慣行」と呼ばれます。
医療慣行に関しては、最高裁判所の判例で「医療慣行に従った医療行為を行ったというだけでは、医療機関に要求される医療水準に基づいた注意義務を尽くしたことにはならない」(最高裁平成8年1月23日判決)と判断されています。
ですから、医療現場で行われているというだけでは、過失がないことの理由にはならないのです。
過失は「医療水準に反すること」
最高裁判所では、過失を判断する基準となるのは「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」(最高裁昭和57年3月30日判決)と判断しています。
つまり、過失か否かを判断する基準となるのは、医療慣行ではなく、医療水準なのだということができます。
医療水準はどうやって決まるか
では、この医療水準がどう決まるかというと、これも最高裁判決があり、「当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、」「当該医療機関においてその知見を有することを期待することが相当と認められる」かどうかによって定まるといわれています(最高裁平成7年6月9日判決参照)。
つまり、全国一律で決まるわけではなく、病院の規模や地域性によって変わってくるということです。そうした医療機関ごとの状況を踏まえつつ、その医療機関であれば期待してよい程度の医療レベルかどうかということが、大きな判断要素となるわけです。
現実的には、医療現場で広く行われている医療慣行であれば、確かにその医療行為が医療水準である可能性は高いと思われます。
ですが、上記のとおり、それだけで必ず過失が認められなくなるわけではありません。
その医療慣行が、きちんとした根拠や理論に基づいて適切に行われているという合理的な理由がなければ、それは過失となる可能性があるのです。
医療慣行に過ぎないのか、医療水準にかなう医療行為といえるのかは見極めが難しいところですが、ここが医療事件の過失の判断の最も重要なところだと思います。