医療事故調査制度の利用
前回ご説明した、過失(ミス)と損害の間の因果関係について、もう少し詳しく触れてみたいと思います。
医療事件のほとんどはミスの有無が争点
医療事件では、前回紹介したような明らかなミスの場合ばかりとは限りません。
過失(ミス)かどうかを争う事件の方が圧倒的に多いです。
過失(ミス)が大きな争点となる事件では、過失(ミス)を一つだけに絞って勝負できるケースというのはあまり多くありません。
勝訴できる可能性を広げるという意味でも、「この時点でこういうことができたはずだ」という点について、複数の過失(ミス)を主張立証していくことが多いものです。
そのミスで生じた被害はどこまで?
もっとも、過失(ミス)が複数指摘できる場合、どの時点での過失(ミス)かどうかによって、その後の結果が変わってしまう可能性があることは否定できません。
たとえば、手術後に細菌感染して亡くなってしまった方がいるような場合です。
感染の兆候を発見できなかったことが過失(ミス)である場合と、感染は発見できていたがその後の処置に不備があったことが過失(ミス)である場合では、どの時点での過失(ミス)であるかが変わってきます。
感染を見落とした過失(ミス)が認められれば、その時点で感染を発見してより早期に適切な処置を行えた可能性があるため、より救命の可能性が高くなり、亡くなったこと自体を損害とする賠償が認められる可能性も高くなりそうです。
他方、その後の処置の不備による過失(ミス)の場合は、感染の兆候を発見するよりも後の対応の問題となりますから、処置の不備の時点では感染の進行がより進んでしまっている可能性があります。
そうなると、この時点で適切な処置ができていたとしても救命できた可能性が低くなってしまい、亡くなったこととの因果関係が認められないという可能性もありうるわけです。
損害との因果関係(つながり)が必要
このように、医療事件で損害賠償が認められるためには、単に過失(ミス)があればよいわけではありません。
過失(ミス)と損害の間の因果関係が必要なのだということ、その因果関係というのは想定される過失(ミス)の一つ一つとの間で認められるかどうかを検討しなければならないのだということを、ぜひ知っておいていただければと思います。