弁護士は診療録を読むことができると思いますか?
以前のコラムで、細菌感染症のケースはお医者さんの過失(ミス)を指摘しにくいと指摘したことがあります。
その理由の一つは、お医者さんが最善を尽くしていても、一定の確率で悪い結果が生じてしまう可能性が高いケースだからです。
細菌感染症の中では、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による感染症の場合に医療ミスを疑って相談にいらっしゃる方が意外と多かったりします。
結果責任ではない
ですが、例えば院内感染という言葉一つをとっても、院内で感染したから病院のミスかといえば、そうはなりません。
あくまでも「一般の医療水準と比較して、院内感染を防止する適切な処置を行っていたかどうか」ということが問題となります。
適切な処置を行っていたにもかかわらず感染してしまったという場合には、病院の責任は追及できないのです。
感染症でミスを指摘できる場合
細菌感染症の場合で医療ミスが指摘できる可能性があるのは、感染症を疑うべきだったのに気付かずに何も処置を取らなかった場合です。
ただ、これは「見落とし」の事案とほぼ同じです。ですから、細菌感染症に特有の問題とは言い難いのです。
抗菌薬の不適切使用
感染症で他に問題となるケースとしては、抗菌薬の不適切な使用方法ということが挙げられます。
先に述べたMRSAも耐性菌と呼ばれますが、抗菌薬を不適切に濫用することによって、抗菌薬に耐性を持つ細菌が出てきてしまうことがあるのです。
このような耐性菌の出現は非常に問題視されており、最近は、安易な予防目的では抗菌薬を使用しないこと、なるべく効く細菌の範囲の狭い抗菌薬から使用すること、それぞれの抗菌薬にふさわしい用法用量をきちんと守ることを推奨する動きが増えてきています。
ですが、実は、抗菌薬の使用は、厚生労働省の投薬基準ではあまり大きな制限はされていないのが実情です。
使用条件に合致さえすれば投与可能となるので、使用するかどうかは処方する医師の決定に委ねられてしまっているのです。
そのため、風邪をひいただけの場合にも相変わらず予防目的の抗菌薬の処方がなされたり、手術前や手術後に感染予防目的で過剰な抗菌薬の投与が行われたりすることがあるのです。
先に述べたような抗菌薬の適正使用の動きは、海外では当たり前のようになっているようです。
日本でも、大きな書店に行けば医学部生や研修医向けの書籍にも同様のことが書かれている書籍が並べられるようになりました。
こうした動きがもっと進んでいき、安易な抗菌薬投与が医療水準に反すると評価されるようになることを期待したいと思います。