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抗菌薬と感染症

川島英雄

川島英雄

テーマ:医療事故

 風邪にほとんど効かない抗生物質(抗菌薬)をなぜ処方するのか?
 それをお話しする前に、「耐性菌」のお話をしておきたいと思います。

薬剤耐性菌の出現

 抗菌薬は文字どおり「細菌をやっつける薬」です。
 ですが、最近にもいろいろな細菌がいますから、どんな最近にも効く万能な抗菌薬はありません。
 どの細菌にどんな抗菌薬が効くか、種類がある程度決まっているのです。

 ところが、最近は、以前効いたはずの抗菌薬が効かなくなった細菌の出現が問題視されています。
 このような細菌を「耐性菌」というのです。
 MRSAという言葉は聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
 これも耐性菌の一つです。

耐性菌が増えた理由

 耐性菌が増えた理由は、抗菌薬の濫用が原因だと言われています。
 抗菌薬を使いすぎたために、細菌が進化して、抗菌薬の作用が効かなくなるように細胞の構成を変えたりしているようなのです。

 このような耐性菌の出現が医療の現場で大きな問題となっていることから、「予防」の一言で安易に抗菌薬を使用することに警鐘がなさられたわけです。
 抗菌薬の処方を、予防なんだからいいじゃないかと言えない大きな理由がここにあります。

抗菌薬の副作用

 もう一つ、抗菌薬には意外と副作用があります。

 典型的なのは「菌交代症」です。
 ある抗菌薬を使うとその抗菌薬が効く細菌数が減ります。
 そうすると、そのためにその抗菌薬が効かなかった別の細菌の数が相対的に増え、その結果その別の細菌の力が強くなってしまうのです。
 これが腸の中で起こると、腸内細菌のバランスが崩れてお腹の調子が悪くなるということがあるのです。

 こうした耐性菌と副作用などの関係から、抗菌薬は濫用を慎まなければなりません。
 海外では、幅広い細菌に効いてしまうような抗菌薬は、極力使用しない方向なのだそうです。
 日本でも、本来はそうあるべきだと思います。

 ですが、日本の現状は、風邪にほとんど効かない抗生物質(抗菌薬)を処方し続けています。これはなぜでしょうか?

抗生物質が処方され続ける理由

 一つは、カネです。

 製薬会社の利害や、病院や医師のもうけの問題です。
 やはり、今使われている薬が大幅に売れなくなってしまえば、困る人はいるでしょう。
 もっとも、抗菌薬は「使うと治ってしまう」ことからあまり利益性のよい薬ではなく、製薬会社はそれほど開発に熱心ではないという意見もあるようです。

 二つ目は、厚労省で認められていることです。

 使用条件に合致さえすれば投与可能となるので、使用するかどうかは処方する医師の決定に委ねられてしまっているのです。
 ここは、抗菌薬を投与することが医療ミスになりにくい要因の一つになっていると思います。

 三つ目は、患者側の問題、私たち一般人の問題です。

 みなさんきっと、「抗生物質は効く」と思いこんでいるのではないでしょうか?
 これが大きな誤解なのは、既に書いたとおりです。
 抗菌薬は細菌にしか効かないからです。

 ですが、「強い(と勘違いしている)」薬を処方してもらって安心したいと思ったり、抗生物質も出さないなんてヤブ医者だなどと大きな勘違いをしていたりする方が多いのではないでしょうか。

 この裏返しのようなものですが、お医者さんの方でも効く(と勘違いしている)抗生物質を欲しがる患者さんに配慮してあげてわざわざ処方してくれる人もいるのではないかと思います。

 私たち患者も、自ら賢くならなければ、思わぬ不利益を被ることになります。
 みなさんも、正しい知識を持ち、お医者さんと良好な関係を築いていけるようにしていただけたらと思います。

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川島英雄
専門家

川島英雄(弁護士)

札幌おおぞら法律事務所

 コミュニケーション能力と、医学的な知識を武器に、交通事故・医療事故の被害者側の案件を重点的に取り扱っている。複数の弁護士が所属する法律事務所の一員で、サポート体制も万全。

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