過失と損害の複雑な関係
よく「医療事故は勝訴率が低い」と言われます。
確かに、最高裁の統計などを見ても、認容率は他の事件に比べて低くなっています。
医療事件は訴訟しない方がよい?
では、「医療事故は勝訴率が低いから訴訟はしない方がよい」というのは正しいでしょうか?
答えは「誤り」です。
統計の読み方に注意
まず、統計の読み取り方に気をつけなければなりません。
最高裁の統計からみた認容率というのは、最終的に判決まで行き着いた事件の中での認容判決の割合です。
医療事件に限らず、訴訟前に相手方と話し合いで解決してしまう場合も少なくありません。
ですが、こうした話し合いで解決した事件の数は、最高裁統計の分母には含まれません。
また、同じく、裁判所で行われる「調停」という話し合いの手続で解決した事件も、認容率をみるときの分母には含まれません。
さらに訴訟の途中で話し合いにより解決した事件(「和解」といいます)の数も、認容率の統計では分母に含まれないのです。
医療事件でいえば、ミスが明らかな場合などは、病院が積極的に話し合いで解決しようとすることがあります。
ですから、病院のミスが明らかな場合は訴訟にならないこともあります。
ですが、これはもちろん認容率の中では評価されません。
また、平成24年度の統計でいいますと、民事事件全体で、和解で解決する事件の数は判決まで至る事件数の8割くらいなのですが、医療事件ではこれが逆転しており、判決まで至る事件数のおよそ1.3倍の事件が和解で解決しています。
ですが、これもやはり認容率の中では評価されません。
目標の違い
次に、一般の民事事件と医療事件では、訴訟を起こす際の目指すべき到達点がかなり違っていることを指摘できます。
一般の民事事件では、訴訟を起こす側(原告)は、勝訴の可能性が高くなければなかなか訴訟まで起こそうとはしないと思います。
よって、訴訟を起こすこと自体、必然的に勝訴の可能性が高いということになります。
また、一般の民事事件では、訴訟を起こされた側(被告)が裁判を欠席することも少なからずあります。
被告が何もせずに欠席すると原告は勝訴することができます。
そして、実は一般の民事事件の認容率には、この被告欠席による勝訴がかなり含まれているのです。
平成24年度の統計でいいますと、一般の民事事件の認容率はおよそ85%もあるのですが、その中の4割近くがこの被告欠席による勝訴なのです。
他方、医療事件の場合には、一般の民事事件ほどには勝訴可能性を前提としないことがあります。
真実を明らかにしたい、ミスがあったのかどうか最後まで追及したいと考えたときには、5分5分くらいの気持ちでも訴訟を提起したいと考えることがあります。
ですから、医療事件の場合には、訴訟を起こすことが必ずしも勝訴の可能性が高いということにはならないのです。
なお、平成24年度の統計でいいますと、医療事件では被告欠席による勝訴は1件もありません。
勝訴率だけで判断するべきではありません
このように、医療事件の場合は、統計の読み取り方や訴訟の際の目標設定をよく考えて、訴訟に踏み切るかどうかを考えることが大切です。
勝訴率だけで判断して、簡単に諦めてしまったり、逆に「訴訟を起こしたのだから勝てるはずだ」と思いこんでしまったりしないようにしていただければと思います。