「デジタル遺言」が新たな選択肢に!
「売るだけ」ではありません。 税金と特例まで確認しましょう
「親から家や土地を相続したけれど、自分では使う予定がない」
「相続人で話し合った結果、不動産を売却して現金で分けたい」
相続では、このように相続した不動産を売却するケースが少なくありません。
しかし、相続不動産の売却は、単に不動産会社に査定を依頼して売るだけではありません。
売却する前に、
・相続登記は済んでいるか
・いくらで売れそうなのか
・売却すると税金はいくらかかるのか
・「空き家の3,000万円特別控除」は使えるのか
・「取得費加算の特例」は使えるのか
・売却する時期によって税負担が変わらないか
――などを確認しておくことが大切です。
相続した不動産は、「売却価格」だけでなく「売却後にいくら手元に残るのか」まで考えて
売却することが重要です。
1.まず確認したい「相続登記」
「相続登記」とは、不動産の所有権を被相続人から相続人に変更する手続きのことです。
この登記をしないと相続した不動産は売却ができません。
さらに、令和6年(2024年)4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った相続人は、原則としてそのことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務となりました。正当な理由がないのに申請を怠った場合には、10万円以下の過料の対象となることがあります。
なお、遺産分割協議がなかなかまとまらない場合には、「相続人申告登記」という制度もあります。
2.相続した不動産を売却するまでの流れ
一般的には、次のような流れになります。
◆STEP1 相続財産を整理する
不動産の所在地、土地・建物の種類、固定資産税評価額、相続税評価額などを確認します。
併せて、住宅ローンなどの借入金や共有者の有無なども確認します。
◆STEP2 遺産分割を決める
遺言がなければ、相続人の間で「誰が不動産を相続するのか」「売却して現金で分けるのか」等を話し合います(遺産分割協議)。
売却して代金を相続人で分ける方法は、一般に換価分割と呼ばれます。
◆STEP3 相続登記を行う
不動産を相続する人を決めたら、相続登記を行います。登記の際、登録免許税がかかります。
なお、相続による不動産の取得については、不動産取得税はかかりません。
◆STEP4 不動産会社に査定を依頼する
複数の不動産会社から査定を受けるなどして、売却価格の目安を確認します。
◆STEP5 売買契約を締結する
売却先が決まったら、売買契約を締結します。この際、契約書には印紙税がかかります。
例えば、現在の軽減措置が適用される期間に作成する不動産売買契約書では、契約金額4,000万円の場合の印紙税は1万円です。なお、この軽減措置は2027年3月31日までに作成される契約書が対象です。
◆STEP6 売却代金を受け取る
決済・引渡しを行い、売却代金を受け取ります。
同時に、所有権移転登記(相続人から買主への名義変更)を法務局に申請します。
◆STEP7 翌年に確定申告
売却によって譲渡所得が発生する場合には、原則として売却した翌年2月16日から3月15日までの間に税務署に確定申告を行います。
3.一番注意したいのが「譲渡所得税」
相続した不動産を売却して利益が出ると、譲渡所得に対して所得税・住民税がかかります。
基本的な計算は、
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費+譲渡費用)- 特別控除 となります。
ここで重要なのが「取得費」です。
相続で取得したからといって、「相続税評価額」が取得費になるわけではありません。
原則として、被相続人がその不動産を取得した時の取得時期や取得費を引き継ぎます。つまり、亡くなった被相続人が生前に購入した時の金額で計算します。
そのため、「親が何十年も前に購入した土地を相続し、売却した」というケースでは、親が購入した時の資料が重要になります。購入時の売買契約書などが残っていれば、取得費を容易に確認
できる可能性が高くなります。
一方、取得費が分からない場合には、一定の場合、売却価格の5%を概算取得費として計算する
ことになります。したがって、売却益は売却価格の95%になります。
購入時の資料が残っているかどうかで、譲渡所得税が大きく変わることがあります。
4.税金や費用は誰が負担するの?
意外と見落としやすいのが、売却にかかる税金や費用は誰が負担するのか、という問題です。
相続不動産の売却では、相続人のうち一人が代表して売却手続きを行うことがありますが、
「代表者が売却手続きをした=税金や費用も代表者一人が負担する」とは限りません。遺産分割の方法や不動産の名義、売却代金の帰属などによって、税金や費用の負担関係が変わります。
そのため、売却前に相続人の間で整理しておくことが大切です。
相続不動産の売却では、「登記名義人=税金をすべて負担する人」と単純に考えないことが
重要です。
特に換価分割では、遺産分割協議の内容によって税務上の取り扱いが変わる可能性があります。
また、共有名義の場合には、それぞれの持分に応じた譲渡所得の計算が必要となります。
さらに、相続税の申告を行った後に不動産を売却する場合には、相続税と譲渡所得税の両方を
考えて、どのように売却するのが有利なのかを検討することが大切です。
5.相続した不動産は「所有期間」にも注意
土地・建物を売却した場合、所有期間が5年を超えるかどうかによって、
長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分され、それぞれ税率が異なります。
相続した不動産については、被相続人の取得時期を引き継いで判定します。
この所有期間の計算方法は、被相続人が所有を開始してから売却の年の1月1日までです。
◆譲渡所得の税率
●長期譲渡所得の場合 原則として「所得税 15%」+「住民税 5%」=20%
●短期譲渡所得の場合 原則として「所得税 30%」+「住民税 9%」=39% ――です。
これに復興特別所得税(長期:0.315%・短期:0.63%)が加わります。
したがって、相続したばかりだからといって、必ず「短期譲渡」になるわけではありません。
親(被相続人)がいつ取得した不動産なのかを確認することが重要です。
6.忘れてはいけない「空き家の3,000万円特別控除」
相続した実家を売却する場合には、ぜひ確認しておきたい特例があります。
それが、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」です。
一定の要件を満たす場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除することができます。
なお、相続人が3人以上である場合の控除額は、1人当たり最高2,000万円となる場合があります。
ただし、誰でも利用できるわけではありません。例えば、
・ 被相続人が一人で住んでいた家であること
・ 原則として昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
・ 区分所有建物ではないこと
・ 相続後から売却まで事業用・貸付用・居住用に利用していないこと
・ 売却価格が一定額(1億円)以下であること
・ 所定の期限(相続開始日から3年経過する日の属する年の12月31日)までに売却すること
・ 親子や夫婦など特別な関係がある人への譲渡でないこと
――など、細かな要件があります。
ですので、「実家だから3,000万円控除が使える」とは限りません。
売却する前に、適用できるかどうかを確認することが大切です。
なお、被相続人が老人ホーム等に入所していた場合でも、一定の要件を満たせば対象となる場合があります。
7.もう一つ重要な「取得費加算の特例」
相続不動産を売却する場合、もう一つ確認したいのが「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」です。
これは、一定の要件を満たす場合、支払った相続税のうち一定額を、不動産の取得費に加算できる制度です。取得費が増えることで、譲渡所得額が少なくなり、結果として譲渡所得税の負担を軽減できる場合があります。
ただし、「相続税を支払っていること」に加え、「相続開始から一定期間内に売却すること」などの要件があります。そのため、「とりあえず何年か保有してから売ろう」と考える前に、取得費加算の適用期限を確認しておくことが重要です。
8.「空き家3,000万円控除」と「取得費加算」はどう違う?
どちらも相続不動産の売却時に検討したい制度ですが、仕組みは異なります。
◆比較表
| 空き家3,000万円特別控除 | 取得費加算の特例 | |
|---|---|---|
| 主な対象 | 被相続人の居住用家屋等 | 相続した土地・建物など |
| 主な条件 | 空き家などについて細かな要件あり | 相続税が課税されている、等 |
| 効果 | 譲渡所得から最高3,000万円控除 | 相続税の一部を取得費に加算 |
| 重要なポイント | 建物の築年数や利用状況等 | 相続税申告との関係・売却期限 |
| 注意点 | 要件確認が必要 | 適用期限に注意 |
なお、同じ相続不動産の売却に対して「空き家特例」と「取得費加算の特例」は、特殊なケースを除き、原則として同時に使うことはできません。どちらか一方の特例を選択して適用することになります。これを「選択適用」といいます。
「どちらを使うべきか」は、相続税額、取得費、売却価格、家屋の状況などを踏まえて判断する必要があります。
◆居住用財産(マイホーム)の売却3,000万円控除
また、「空き家特例」と「取得費加算の特例」は併用適用はできませんが、「居住用財産を売却した場合の3,000万円の特別控除」は「取得費加算の特例」との併用(同時)適用は可能です。
例えば、親(被相続人)と同居していた家を相続し、相続後もそこに住み続けた後に売却したケースです。この場合は空き家でないので、当然ながら「空き家特例」は適用できません。
9.売却すると「国民健康保険料」にも影響することがあります
個人事業主などで国民健康保険に加入している方の場合、不動産の売却による譲渡所得が、翌年度の国民健康保険料(税)の算定に影響する場合があります。
そのため、「譲渡所得税だけ計算すれば大丈夫」とは限りません。
売却により所得額が増加すると、たいていの場合、翌年の保険料の負担が大きくなります。
そこで、税金だけでなく、社会保険料等への影響が生じることにも注意しましょう。
※国民健康保険料(税)の計算方法は自治体によって異なります。
10.まとめ 相続不動産の売却は「売る前の税金計算」が重要です
相続した不動産を売却するときは、売却してから税金を計算するのではなく、
できれば売却を決める前に税金を試算しておくことをおすすめします。例えば、
◆ケース1 「空き家の3,000万円特別控除が使える」
◆ケース2 「取得費加算の特例が使える」
◆ケース3 「どちらも利用できない」
この3つでは、売却後の税負担が大きく変わる可能性があります。
特に、「空き家の3,000万円特別控除」や「取得費加算の特例」は、適用できるかどうかによって税負担が大きく変わる可能性があります。
また、相続した不動産の売却は、相続税の申告だけで完結する問題ではありません。
相続税、譲渡所得税、不動産の評価、遺産分割、売却時期などをまとめて考える必要があります。相続不動産の売却は「売却価格」だけでなく「税引後の手取り」で考えましょう。
当事務所では、相続税申告だけでなく、相続後の不動産売却に関する譲渡所得の計算や各種特例の適用についても検討し、「相続から売却後の税金まで」を見据えた相続対策・税務相談を行っています。相続した不動産の処分や売却についてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。


